桜型駆逐艦

桜型駆逐艦：日本海軍二等駆逐艦の先駆け

桜型駆逐艦は、日本海軍が明治時代後期に建造した二等駆逐艦です。大型駆逐艦である海風型と並行して計画され、国産駆逐艦の発展に重要な役割を果たしました。ここでは、桜型駆逐艦の計画、艦名、艦型、運用、同型艦、駆逐隊の変遷について詳しく解説します。

計画の背景

1907年（明治40年）、日本海軍は海風型駆逐艦と並行して、中型の二等駆逐艦の建造を計画しました。これは、海風型が一挙に排水量1,000トンを超える大型艦（後の 一等駆逐艦）となったものの、駆逐艦全体の数を揃える必要があり、予算の制約から一等駆逐艦を多数建造することが難しかったためです。そこで、一等駆逐艦と並行して、中型の二等駆逐艦が建造されることになりました。

当初は神風型駆逐艦3隻の建造が予定されていましたが、小型すぎると判断され、排水量を600トンに増した中型駆逐艦2隻を建造することに変更されました。これが桜型駆逐艦であり、大正末期の若竹型駆逐艦まで続く二等駆逐艦51隻の最初のグループとなりました。

艦名の由来

桜型駆逐艦は、二等駆逐艦として初めて植物の名前が採用されました。艦名は、京都御所の紫宸殿の左右に植えられた「左近の桜」「右近の橘」にちなんで命名され、日本らしさを表現しています。

艦型の特徴

桜型駆逐艦は、イギリス海軍の最新駆逐艦トライバル級を参考にして設計された海風型駆逐艦を小型化したような艦型となりました。艦首形状は、従来のホエールバック型から低船首楼を持つクリッパー型となり、この形式のプロトタイプとなりました。

機関については、海風型がタービンエンジンを採用したのに対し、桜型では海風型の実績を見るまでタービン搭載を見合わせ、従来のレシプロエンジンを搭載しました。ただし、従来の駆逐艦がレシプロ2基2軸だったのに対し、桜型では「浦波」（神風型駆逐艦の最後の1隻）のレシプロ機関を1基増やし、3基3軸としました。機械室は前後2室に分かれ、前部機械室で左右のスクリューを、後部機械室で中央のスクリューを駆動しました。竣工時には3本の煙突は同じ高さでしたが、1917年（大正6年）頃に第1煙突の高さが増されました。

砲装は、艦首に4.7インチ（12cm）砲1門、左右舷側に3インチ（8cm）砲を1門ずつ、艦後方の中心線上に2門の計4門を装備しました。魚雷発射管は、18インチ（45cm）連装発射管を艦の前後に1基ずつ装備しました。海風型と比較すると、雷装は同じですが、砲装は12cm砲、8cm砲ともに1門少ないだけにとどまり、艦型に比較して重武装でした。

運用と戦歴

桜型駆逐艦は、「桜」と「橘」の2隻が舞鶴海軍工廠で建造されました。「橘」は「桜」より1カ月遅れて起工、進水、竣工しました。竣工後は、2隻で第十七駆逐隊を編成し、後に樺型駆逐艦の「樺」「桐」とともに4隻で第二十一駆逐隊を編成しました。「橘」は1923年（大正12年）から1925年（大正14年）にかけて旅順防備隊に所属し、同方面で活動しました。

両艦とも長期にわたり運用され、1928年（昭和3年）には空母「鳳翔」の直衛兼救難任務に従事し、1932年（昭和7年）4月1日に2隻とも除籍されました。

第一次世界大戦の勃発により、桜型駆逐艦を元にして樺型駆逐艦が急遽建造、量産されました。この点で、桜型駆逐艦は後の駆逐艦発展に大きく貢献しました。

同型艦

桜（さくら）
橘（たちばな）

駆逐隊の変遷

桜型駆逐艦は、2隻で第17駆逐隊を編成しましたが、4隻定数の駆逐隊には2隻足りなかったため、樺型駆逐艦の樺、桐を編入して定数を満たしました。

* 第十七駆逐隊→第二十一駆逐隊
佐世保鎮守府籍の桜・橘で編成。後に樺型駆逐艦の樺・桐を編入して定数を満たしました。大正7年4月1日、佐鎮の駆逐隊は第二十一～第三十までの番号に揃えられたため、第二十一駆逐隊に改称しました。

桜型駆逐艦は、日本海軍の駆逐艦発展の礎となった重要な艦艇です。その設計思想や運用実績は、後の駆逐艦に大きな影響を与えました。

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