樺型駆逐艦

樺型駆逐艦

樺型駆逐艦は、第一次世界大戦勃発を受けて日本海軍が建造した二等駆逐艦の艦級です。同型艦は10隻に及びます。

建造の背景

第一次世界大戦への参戦に伴い、日本海軍は外洋での作戦活動が可能な艦艇を早急に必要としました。当時の日本海軍は、外洋航行可能な駆逐艦を一等駆逐艦の海風型2隻、二等駆逐艦の桜型2隻しか保有していませんでした。そこで、1914年8月23日の対ドイツ宣戦布告からわずか5日後の8月28日、海軍大臣は臨時軍事費による駆逐艦10隻の建造を要請、帝国議会の承認と天皇の裁可を経て、建造が決定しました。予算は大正3年度のみに限定され、翌春までに全艦を竣工させるという異例のスピード建造が求められました。

驚異的なスピード建造

この短期間での建造を可能にするため、横須賀、呉、佐世保、舞鶴の4つの海軍工廠と、三菱長崎造船所、川崎造船所、浦賀船渠、大阪鉄工所の4つの民間造船所が総動員されました。横須賀と呉の海軍工廠では、乾ドック内での建造により進水の手間を省き、川崎と三菱長崎では2隻同時並行建造を実施しました。機関や艤装品の納入も最優先とされ、全艦が起工から5ヶ月以内に竣工するという驚異的な速さで完成しました。最も早く竣工した樺の場合、起工からわずか105日で竣工しています。

この急速建造の背景には、機関にレシプロエンジンを採用したことが挙げられます。これは、戦時型の駆逐艦において、量産に適した機関を選定することが重要であることを示しています。

10隻の建造費は予算1057万円余りに対し、実際の支出額は約989万円でした。

艦型

基本計画番号はF23。設計は、急速建造に対応するため桜型駆逐艦の図面を流用し、一部改正に留められました。船体は桜型と同一ですが、機関の改正や桜型の排水量増加を踏まえ、各部の重量配分を改め、計画排水量は665トンとなりました。

主機は桜型と同じレシプロ3基3軸ですが、主缶は桜型のイ号艦本式缶（混焼）5基に対し、後部の2基をロ号艦本式缶（石炭専焼）とし、前部の3基を大型のロ号艦本式缶（重油専焼）2基に置き換えて缶の数を減らしました。これにより生まれた機関前方のスペースを重油タンクとし、重油60トンを増載することで航続距離を延伸、重油タンク上部は准士官室として居住性も改善されました。外観上の特徴として、ボイラー改正により3本の煙突の太さ、間隔がそれぞれ異なっていました。ただし、一部の艦では竣工後に重油タンクからの漏洩が確認されています。

兵装は桜型と同一で、艦首甲板に12cm砲1門、8cm砲4門を搭載。魚雷発射管は連装発射管を2基（計4門）搭載し、予備魚雷も搭載していました。後甲板には、後に連繋機雷である一号機雷乙型の敷設軌道が設置されました。

運用

竣工した10隻のうち、樺と桐は桜型の桜、橘と第21駆逐隊を編成しました。残りの8隻は、楓、桂、梅、楠で第6駆逐隊、榊、柏、松、杉で第7駆逐隊を編成し、1916年秋から1917年初頭にかけてシンガポールに進出、その後地中海に進出して船団護衛の任務に就きました。このうち榊は、1917年6月11日にオーストリア潜水艦の雷撃を受け、艦首を切断する被害を受け、59名の戦死者を出しました。

1932年4月1日、全艦が除籍されました。

アラブ級駆逐艦

第一次世界大戦に連合国として参戦していたフランス海軍も、樺型を元にした駆逐艦を日本に発注しました。これがアラブ級駆逐艦で、1917年に12隻が建造され、フランス海軍に引き渡されました。

アラブ級は樺型を基本としつつ、各部構造の強化や艤装の改善が行われ、排水量は690トンに増加しました。兵装は、3番煙突後方の8cm砲1門を8cm高角砲1門に換装しています。建造は日本の海軍工廠に加え、川崎造船所と三菱長崎造船所でも行われ、全艦が半年あまりで竣工しました。工事の監督は日本海軍が行い、ポートサイドまでの回航も日本海軍の乗員によって行われました。

同型艦一覧

樺（かば）
榊（さかき）
楓（かえで）
桂（かつら）
梅（うめ）
楠（くすのき）
柏（かしわ）
松（まつ）
杉（すぎ）
桐（きり）

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