梁塵秘抄

平安時代の歌謡集『梁塵秘抄』：その成立から現代研究まで

『梁塵秘抄』（りょうじんひしょう）は、平安時代末期、後白河法皇によって編纂された今様歌謡集です。後白河法皇は若い頃から今様を愛好し、多くの歌を収集しました。法皇は、これらの歌が将来にわたって失われることを危惧し、自ら書き留めることで本書を完成させました。同時に、歌謡の歴史や背景に関する口伝集も10巻作成したと伝えられています。

書名にある「梁塵」は、優れた歌声は梁の塵をも動かすという故事に由来しており、本書に収められた歌の質の高さを示しています。

伝来と発見

『梁塵秘抄』の名は、鎌倉時代の随筆『徒然草』にも登場します。また、『本朝書籍目録』には20巻から成ると記されています。しかし、近代までその全貌は明らかではなく、口伝集の一部のみが知られていたに過ぎませんでした。

状況が一変したのは1911年（明治44年）、佐々木信綱らによる重要な発見です。彼らは、本編の一部と口伝集の一部を発見。その後の研究によって、本編と口伝集の断片が少しずつ明らかになり、大正から昭和にかけて、佐々木信綱による校訂本が刊行されました。これにより、『梁塵秘抄』に収録された歌謡が一般に広く知られるようになりました。

構成と内容

『梁塵秘抄』は、当初本編10巻、口伝集10巻の計20巻から成ると推測されています。しかし、現存するのはそのごく一部のみです。特に、口伝集の巻第11以降については、謎が多く残されています。

本編

現在、確認できるのは巻第一の断片と巻第二のみです。これらの巻に収録されている歌の数は、巻第一が21首、巻第二が545首で、合計566首。ただし、重複する歌もあるため、実際の歌の数はこれよりも少ないと推測されます。巻第一の冒頭には歌の種類と数が記されており、完本であれば309首が収められていた可能性があります。

歌の形式は様々で、七五調四句や八五調四句、五七五七七など、様々な調子が用いられています。

有名な歌としては、童謡のようなものや、艶っぽいものなどがありますが、最も多いのは仏教に関連した法文歌です。他に、神社への道中や風景を描写した歌も多く含まれます。

口伝集

口伝集は、各ジャンルの歌謡に関する解説や伝承を記したと考えられています。現存するのは巻第一のごく一部と巻第十、そして巻第十一から第十四のみです。特に巻第十一から第十四には、歌の具体的な歌い方や音律、拍子などが記されていると推測されていますが、内容の解読は困難を極めています。これらの巻が『梁塵秘抄』に加わる場合、巻数は20巻を超え、『本朝書籍目録』の記述と矛盾が生じます。

現在、多くの古典全集では、巻第十一以降は省略され、口伝集は巻第一と巻第十のみが収録されています。巻第十一以降の全文を閲覧できるのは、岩波文庫版など限られたもののみです。

各巻の内容

本編

巻第一: 21首のみ現存
巻第二: 545首現存。写本は1冊のみ
巻第三～巻第十: 欠巻

口伝集

口伝集 巻第一: 神楽、催馬楽、風俗、今様の起源に関する記述がわずかに残る。
口伝集 巻第二～巻第九: 欠巻。様々な歌謡形式に関する記述があったと推測される。
口伝集 巻第十: 後白河法皇と今様の関わりについて記述。法皇の今様への深い愛情と熱意が伺える。
* 口伝集 巻第十一～巻第十四: 歌い方、音律、拍子に関する記述と推測されるが、難解な内容である。近年、江戸期の写本が発見された。

現代における研究と関連作品

『梁塵秘抄』は、現代においても様々な研究が続けられています。多くの注釈書や関連書籍が刊行され、また、現代音楽や舞台芸術などにも影響を与え続けています。近年では、スペイン語への翻訳も出版されています。

様々な研究者や音楽家、そして翻訳家など多くの人々が関わり、現代においても『梁塵秘抄』は人々の関心を惹きつけています。これらの活動によって、平安時代の歌謡文化が現代に息づいていると言えるでしょう。

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