棚下照生

棚下照生の生涯と業績

棚下照生（たなか てるお、本名：田中輝夫）は、1934年3月22日に宮崎県延岡市で生まれた日本の漫画家です。彼は児童向け剣戟漫画で名を馳せ、その後は青年誌での活動に移行しました。「女侠客・股旅もの」というジャンルで多くの作品を手掛け、数々の映像化も果たしました。代表作には『ヒマラヤ天兵』『めくらのお市物語』『旅がらすくれないお仙』などがあり、特に『めくらのお市物語』は松竹によって映画化され、テレビドラマにもなりました。妻は元女優の松山容子です。

来歴

16歳の時、棚下は東京に単身上京し、戦後の荒廃した日本で生活していくために様々な仕事をしながら漫画を独学で学びました。1951年、彼は『ハンスと魔王』で漫画家としての道を歩み始めます。その後、1959年から1960年にかけて連載した『ヒマラヤ天兵』が大ヒットし、テレビドラマ化も実現しました。この作品を通じて、同じく漫画家の寺田ヒロオと親交を深め、彼をプロ漫画家に誘ったのは棚下でした。

上京後の棚下は、「トキワ荘」では仲間意識よりも自由な制作スタイルを重視し、漫画を生きるための手段としました。彼の作品には、常に酒がそばにあり、稼いだ金は遊興に使うという無頼を貫いた生活が反映されています。1966年には芳文社の編集長に求められ、成人向けの長編漫画「女侠客物」の執筆を始め、大ヒットしました。特に『めくらのお市物語』は、1969年に松山容子主演で映画化され、後にテレビドラマにもなり、松山にとっての代表作ともなりました。

映像化作品と評価

棚下の作品は他にも多数映像化されており、『ハンターお竜』をもとにした『女殺し屋 花笠お竜』や、『笹笛お紋』、『モナリザお京』といった作品が大映から公開されました。彼の描く女性は柔らかい曲線で特徴づけられ、評論家の草森紳一は「色気のある線」を棚下の作品の特長として挙げています。

しかし、1970年代以降は青年誌のリアルな劇画が台頭し、棚下自身の発表作は減少していきました。晩年には若い頃からの無頼な性格が影響し、経済的には不遇な面もありましたが、彼は新宿区役所裏でミュージックパブ「恋溜」を経営し、時折手塚治虫を招く楽しみも持っていました。手塚は得意のピアノ演奏を披露することもしばしばあり、棚下にとっての楽しいひとときでした。

また、晩年に出会った俳優で殺陣師の室町大助を見出したのも棚下の功績と言えるでしょう。

最期と遺産

棚下照生は2003年に肝硬変によりこの世を去りましたが、彼が残した漫画作品は今なお多くの人々に愛されています。特に、独自の女性キャラクター表現やストーリー構成は後続の漫画家たちにも影響を与え続けており、彼の作品は日本の漫画史において重要な位置を占めています。

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