森三郎

森三郎

森三郎（もり さぶろう、1911年1月25日 - 1993年8月27日）は、愛知県碧海郡刈谷町（現・刈谷市）出身の童話作家、編集記者です。16歳年上の兄に書誌学者の森銑三がいます。新美南吉、坪田譲治、平塚武二らと共に、児童雑誌『赤い鳥』の作家として活躍しました。

生涯

幼年期

1911年（明治44年）1月25日、愛知県碧海郡刈谷町に生まれました。2人の兄と1人の姉を持つ4人兄弟姉妹の末っ子（三男）です。父親は呉服商を営んでおり、昔話を好んで語り、母親は書物を大切にする人でした。

1917年（大正6年）に亀城小学校に入学し、在学中に鈴木三重吉の『世界童話集』に触れました。1918年（大正7年）に鈴木三重吉が創刊した児童雑誌『赤い鳥』に兄の森銑三の影響で触れ、強い興味を持ちました。兄の銑三は小学校の代用教員を務め、児童たちと『赤い鳥』を読むこともあったそうです。銑三が上京する際には既刊の『赤い鳥』を譲り受け、東京から新刊が送られてくる日々を送りました。

1919年（大正8年）には、8歳にして兄の銑三が代理で応募した『赤い鳥』の作品が選外佳作となり、誌面に名前が掲載されました。1921年（大正10年）には、兄の銑三らが創刊した童謡誌『小さな星』に4編が掲載されます。1923年（大正12年）には『金の星』への投稿作品が佳作に、『童話』への投稿作品が選外佳作に選ばれ、同誌に投稿した作品が入選しました。1925年（大正14年）までに、『童話』に多数の作品を投稿し、8編が入選、4編が選外佳作となっています。自ら『赤い鳥』に投稿することはなかったものの、『赤い鳥』に強く惹かれていました。

『赤い鳥』時代

1925年（大正14年）、14歳で亀城小学校高等科を卒業し、上京。川上貞奴が晩年の情熱を注いだ川上児童楽劇団で5年間を過ごしました。劇団には久留島武彦、高階哲夫、高階満寿、高田雅夫らが参加していました。1929年（昭和4年）に『赤い鳥』が休刊しますが、1931年（昭和6年）に復刊すると、茅原順三の筆名で投稿した作品が掲載されます。また、千葉省三らの同人誌『童話文学』にも本名で作品を発表しました。『赤い鳥』には毎号のように作品が採用され、複数の筆名で1号につき2～3作品が掲載されることもありました。日本の古典や昔話、国外文学の再話など、幅広いジャンルの作品を手がけました。

1932年（昭和7年）1月には鈴木三重吉を訪問して創作指導を受け、21歳だった6月には赤い鳥社に入社し、編集や作品執筆に携わりました。他誌の影響で『赤い鳥』への投稿が減ると、森自身がサクラとして投稿することもあったそうです。

1936年（昭和11年）に鈴木三重吉が亡くなると、森が企画編集した「鈴木三重吉追悼号」（『赤い鳥』10月号）が刊行されました。『赤い鳥』は追悼号を最後に休刊となりますが、森が同誌に発表した作品は判明しているだけで119編に及び、使用した筆名は本名を含めて46にも及びます。

戦時中

1941年（昭和16年）冬頃からは政教社で『日本及日本人』の校正に従事しました。太平洋戦争が開戦すると、物資が欠乏し、戦意高揚のための読み物以外は出版が難しくなりましたが、友人たちの尽力により、『昔の笑ひばなし』『かさゝぎ物語』『うぐひすの謡』『雪こんこんお寺の柿の木』の4冊の単行本を出版しました。1945年（昭和20年）3月の東京大空襲で住居を失い、一時的に与田凖一の下宿に身を寄せましたが、再び空襲に遭い、故郷の刈谷町に戻り終戦を迎えました。この年に奥谷ゑつと結婚し、以後、亡くなるまで刈谷で暮らしました。

戦後

1946年（昭和21年）に長女、1948年（昭和23年）に長男が誕生しました。1946年に発表した童話『城下町』は、刈谷をモデルにしたと思われ、城下町が工業都市に変貌する様子を描いています。1950年（昭和25年）頃からはNHK大阪放送局などのラジオ番組に童話を寄稿し、同人誌『新児童文学』に投稿するなど、関西の童話作家とも交流しました。1951年（昭和26年）5月からは愛知県立刈谷高等学校に勤務し、図書室などの事務を担当しました。1954年には妻ゑつが亡くなり、同年3月に刈谷高校を退職しました。

1958年（昭和33年）頃からは童話や童謡の執筆は少なくなり、『赤い鳥』関連の証言や随筆を多く発表しました。同年には小峰書店が刊行した『赤い鳥代表作集』の編集に携わりました。1987年（昭和62年）には日本児童文学学会東海支部結成準備会が企画した座談会に出席しました。親交のあった郷土史家が自伝執筆を進めても、森は固辞し続けました。

1993年（平成5年）8月27日、前立腺癌のため死去。82歳でした。刈谷市寺横町の正覚寺に埋葬されました。

死後

1995年（平成7年）5月には、刈谷市が市制45周年記念事業の一つとして、森三郎の作品集『かささぎ物語』を刊行しました。1997年1月には、刈谷市教育委員会と刈谷市中央図書館が『かささぎ物語』の続編として『夜長物語』を刊行しました。2004年には刈谷市が森三郎童話賞を創設しました。

作品

書籍

『昔の笑ひばなし』中央公論社、1942年
『かさゝぎ物語』帝国教育会出版部、1942年
『うぐひすの謡』拓南社、1943年
『雪こんこんお寺の柿の木』泰光堂、1943年
『幼年童話集 帽子に化けたクロネコ』東京一陽社、1949年
『三年生の童話 お話の泉』東京一陽社長野分室、1949年

雑誌

「鈴木三重吉研究」『新文明』1958年-1960年
「『赤い鳥』の寄稿者たち」『日本古書通信』1958年-1959年
「ある老女の話」『新文明』1962年
「復刻『赤い鳥』によせて 三重吉の狂いのない目」『図書新聞』1969年
「『赤い鳥』と『黒い鳥』」『日本児童文学』1971年
「『赤い鳥』の歴史」『赤い鳥名作集月報』1973年
「若き日の兄森銑三の思い出」『ふるほん西三河』1985年
「写生文と童話」『ももんが』1987年
* 「光の精」『鈴木三重吉[赤い鳥]通信』1989年

森三郎童話賞

森三郎の功績を称え、2004年に刈谷市が森三郎童話賞を創設しました。主催は刈谷市と刈谷市教育委員会、後援は日本図書館協会、愛知県教育委員会、日本児童文学者協会です。2005年に第1回授賞式が行われ、以後3年に1回の頻度で開催されています。刈谷市教育委員会は、市内で開催している「読書感想文・創作作文コンクール」を森三郎童話賞子ども部門と称しています。

2011年に生誕100周年を迎え、2012年には刈谷市民有志が「森三郎刈谷市民の会」を結成しました。同会は定期的に読書会「森三郎の作品を読む会」を開催しています。

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