高田雅夫

高田雅夫（たかた まさお）は、1895年9月30日に生まれ、1929年5月24日に逝去した日本の舞踊家です。本名は中村輝義といい、大正期にあたる浅草オペラ隆盛期（1917年頃から1923年頃）に、その才覚を大いに発揮しました。彼は石井漠と並び称される、日本の洋舞の基礎を築いた開拓者の一人として歴史に名を残しています。

彼の故郷は鹿児島県鹿児島市新屋敷通町でした。父である中村軍助氏は、欧州航路で初の機関長を務めた人物でしたが、雅夫がまだ幼い頃に亡くなったため、彼は姉妹とともに母の手一つで育てられました。地元の鹿児島市立松原小学校を経て、旧制鹿児島県立第二鹿児島中学校を卒業しています。中学校時代の同窓には、後に著名な彫刻家となる安藤照や、実業界で活躍した谷口午二がいました。

旧制中学を卒業する頃に上京した高田は、1913年（大正2年）、試験に合格して帝国劇場歌劇部の第二期生として迎え入れられます。ここではイタリアから招かれたオペラ指導者ローシーから専門的な指導を受け、翌年には早くもバレエ作品の主役に抜擢され、舞台人としての第一歩を踏み出しました。

帝国劇場歌劇部は1916年（大正5年）に解散しますが、師であるローシーが同年10月に赤坂にローヤル館を開き、オペラ興行を始めると、高田もこれに参加しました。この頃、彼は原せい子と結婚し、妻も高田せい子として舞踊家としての道を共に歩むことになります。しかし、ローヤル館は1919年（大正8年）2月には閉館となりました。同年5月、浅草公園六区での浅草オペラ興行に松竹が本格的に参入し、「新星歌舞劇団」を結成すると、高田夫妻はこの劇団に移籍し、その中心メンバーとして活躍しました。

1920年（大正9年）8月、浅草の興行界で力を持っていた根岸興行部の根岸吉之助は、「金龍館」を拠点とする自身の事業拡大を目指し、「新星歌舞劇団」から高田夫妻をはじめ、清水金太郎・清水静子夫妻、田谷力三、堀田金星といったローヤル館出身の実力派たちを引き抜き、「根岸大歌劇団」を立ち上げました。同年10月11日に旗揚げ公演が行われたこの劇団は、金龍館とともに浅草オペラ全体の隆盛を牽引する存在となり、高田雅夫はその黄金期を支える主要な舞踊家として精力的に活動しました。

関東大震災が発生する前の1922年（大正11年）、高田は妻せい子を伴って欧州および米国へと旅立ち、各地で最新の舞踊理論や技術を学びました。しかし、彼らが帰国した1924年（大正13年）3月には、根岸大歌劇団は既に解散しており、浅草オペラもかつての勢いを失っていました。帰国後、高田は自身の舞踊研究所を設立し、次代を担う後進の指導にあたります。また、松竹楽劇部の顧問を務めるなど、日本の洋舞界への貢献を続けました。

精力的な活動を展開していた高田雅夫でしたが、1929年（昭和4年）5月24日、病によりこの世を去りました。その生涯はわずか満33歳という、あまりにも早すぎるものでした。彼の墓所は東京都府中市にある多磨霊園にあります。また、中学校時代の同窓である彫刻家、安藤照が制作した高田の胸像が、妻のせい子から1966年（昭和41年）に開館記念として鹿児島県文化センターへ寄贈されており、故郷にその姿が残されています。

代表的な振付作品としては、「崇高」「剣の舞」「東洋の幻想」などが知られています。高田雅夫は、浅草オペラという大衆的な舞台を通じて、まだ新しい芸術であった洋舞を日本に広め、その黎明期における基礎を築いた重要な人物です。短い生涯ではありましたが、石井漠と共に近代日本舞踊史において確かな足跡を残しました。

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