棲息分布

『棲息分布』

『棲息分布』（せいそくぶんぷ）は、日本の著名作家、松本清張による長編小説です。この作品は1966年から1967年にかけて『週刊現代』に連載され、1977年4月に講談社から出版されました。この小説は、終戦直後から高度経済成長期にかけての日本の経済界の人間模様を描いた物語であり、特に財界人たちの複雑な相関関係に焦点を当てています。さらに、1977年にはテレビドラマとしても放映され、多くの視聴者に支持を受けました。

物語は、オリエント運輸産業の会社社長である井戸原俊敏の周辺から始まります。彼は元軍需省の雇員という背景を持ち、終戦後に急速に成り上がった実業家です。物語は、井戸原が東洋鉄鋼の独裁的な会長・菅沼丑一の影響下にある状況からスタートします。菅沼が突然死することから展開が始まり、後継者の幸一が井戸原に融資の継続を懇願します。しかし、東洋鉄鋼は業績を不正に粉飾しており、井戸原が持つ豊富な資金力を頼っているのです。

井戸原は、融資を継続する代わりに傘下の建設会社を手中に入れるという条件を提示します。彼は愛人を使って政務次官の志波卓生と接近し、更なる資金の拡大を狙います。しかし、井戸原の手腕には汚職の影がちらついています。井戸原の後ろには、彼の側近である根本安雄がいます。根本は井戸原の過去を知る立場にあり、彼の策略を見抜いていました。

登場人物たちはそれぞれが絡み合い、複雑な人間関係を織りなします。井戸原の妻である初子や、政務次官の愛人、銀座の洋服店経営者など、多様なキャラクターが物語に華を添えます。根本は井戸原の下半身の乱脈を探りつつ、彼を倒す策を練っていきます。

この作品はただのフィクションではなく、著者が示唆するように実在する人物が当てはまる例が多数存在します。松本清張は、「現実の断片が抽象に消化されずに残っている」として、作品内に存在する数々の状況やキャラクターには特定のモデルがあることを暗示しています。たとえば、財界の大物や多様な業界の人々、さらには著名な事件と連動する形で描かれることとなっています。

本作は、その当時の日本における経済界、政界の癒着や信頼喪失の背景に触れ、読者に多くの示唆を与える作品として広く知られています。特に連載当時の政治不信や社会的混乱が反映されており、ロッキード事件の影響を受けているとの指摘もあります。

また、物語の舞台には現実の地名も登場します。例えば、浅間温泉や香港のホテルなどがあり、舞台設定のリアリティを高めています。テレビドラマ版では、松本清張自身が出演するなど、原作者が作品の映像化に関与している点も興味深いところです。視聴率も高く、視聴者からの評価を受けたことで、作品としての価値がさらに評価されることとなりました。

松本清張の『棲息分布』は、時代背景を反映しつつ、経済界の人間関係に鋭く切り込んだ作品であり、当時の日本社会を知る手がかりとなり得る重要な一冊です。

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