楊継宗

明代の官僚、楊継宗の生涯

楊継宗（よう けいそう、1426年 - 1488年）は、明代中期に活躍した官僚です。字は承芳、号は直斎と称しました。本貫は沢州陽城県です。彼はその清廉潔白な人柄と、民衆を思う姿勢で、多くの人々に敬愛されました。

立身と官歴

1457年（天順元年）、科挙に合格し進士となりました。刑部観政を経て、1459年（天順3年）には刑部貴州司主事に任じられました。その後、1462年（天順6年）には承徳郎の位に進みました。

1465年（成化元年）、王翺の推薦により、嘉興府知府に抜擢されました。しかし、父の死去により一時辞職し、喪に服しました。喪が明けた1478年（成化14年）には、浙江按察使に転じました。

1481年（成化17年）に母が亡くなると、再び辞職して喪に服しました。喪が明けた1484年（成化20年）には、右副都御史となり、順天巡撫を兼務しました。

1485年（成化21年）、天文の異変を機に、成化帝が時政への意見を求めると、継宗は宦官や文武官僚の貪婪暴虐を批判し、地方に派遣されている宦官の召還を求めました。この進言が権力者の恨みを買い、雲南按察司副使に左遷されました。

1487年（成化23年）、弘治帝が即位すると、湖広按察使に転じました。1488年（弘治元年）4月には、左僉都御史となり、雲南巡撫を務めました。しかし、同年10月に63歳で亡くなりました。死後、1621年（天啓元年）に貞粛という諡号が贈られました。

人物と逸話

楊継宗の人物像を語る上で欠かせないのが、彼の数々の逸話です。刑部にいたとき、疫病が蔓延した囚人たちに対し、食事を改善し、入浴を促すことで多くの命を救いました。

また、河間で盗人を逃した里民の張文が、罪を被って出頭した際には、継宗は真実を見抜き、彼を釈放しました。この逸話は、彼の卓越した洞察力を示しています。

嘉興府知府時代には、上官や役人に会う際、朝廷の法服を着用することを徹底しました。これは、形式を重んじるというよりも、官吏としての自覚と責任を明確に表すものでした。

また、教育にも熱心で、社学を大いに興し、就学していない子供の親を罰するという厳しい措置をとる一方で、学官を賓客として遇しました。

御史の孔儒が軍の粛正を名目に、多くの里老を鞭打って死なせた際には、継宗は「御史が民戸の帳簿を調べるのは職務ではない」と諫めました。孔儒が報復として継宗の荷物を調べたところ、粗末な衣服しかなく、その清廉さに恥じ入ったという逸話も残っています。

成化帝が「朝覲の官で誰が清廉か」と尋ねた際、汪直は「天下で金銭を愛さないのは楊継宗だけだ」と答えたと言われています。また、浙江按察使時代には、食糧不足の罪で投獄された倉官たちを、計量で余った食糧を官吏が献納することで釈放しました。

彼は、しばしば宦官の張慶と対立しましたが、張慶の兄である張敏が、成化帝に継宗の人柄を伝えたことにより、厚遇されるようになったと伝えられています。

母の死を聞いた際には、駅亭に荷物を預け、一人の下僕と書物を携えて帰郷したという逸話は、彼が物欲に執着しない人物だったことを物語っています。

順天巡撫時代には、権力者が占有していた荘田を奪い返し、民衆の生活を守りました。

郷試を監督した際には、王華と李旻の答案を「天下の大魁」と評し、実際に二人が状元となったことから、彼の鑑識眼の高さが知られるようになりました。

湖広按察使に着任した際には、庁舎を水洗いした上で職務にあたったという逸話は、彼の清廉さを象徴しています。雲南巡撫時代には、旧知の官僚たちに翌日からの公務での厳正な対応を予告し、職務不適格者を弾劾するなど、その職務への真摯な姿勢を示しました。

楊継宗の業績と影響

楊継宗は、その生涯を通じて、清廉潔白な人柄と卓越した識見で、明代の官僚の模範となりました。彼は、民衆を救済し、不正を正すことに尽力し、その行動は、多くの人々に勇気と希望を与えました。

その生き様は、後世の官僚たちの鑑となり、彼の名は、歴史の中に深く刻まれました。

参考資料

『明史』巻159 列伝第47
中憲大夫都察院左僉都御史楊貞粛公墓碑（覚羅石麟『山西通志』巻197所収）

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