楠町 (山口県)

楠町：歴史と自然に彩られた山口県の旧町

山口県南西部に位置していた楠町は、2004年11月1日に宇部市に編入された旧町です。有帆川と厚東川沿いに広がる、船木、万倉、吉部の3地区から成り、北と西側は山地、東側は宇部市小野地区を挟んで山地で囲まれた、豊かな自然に恵まれた地域でした。南側は有帆川に沿って平野が広がり、山陽小野田市へと繋がっていました。町のシンボル的存在だった荒滝山や、有帆川、厚東川といった自然も特徴的です。

神功皇后伝説と歴史の重み

楠町の地名は、神功皇后の伝説に由来すると伝えられています。船木や万倉といった地名も、この伝説と深く関わっていると言われています。江戸時代には、船木地区が山陽道の宿場町として栄え、1650年には船木宰判が設置され、大正時代頃までは旧厚狭郡の中心地として重要な役割を担っていました。船木には代官所が置かれ、炭鉱経営の権利を管理する役所もあったことから、地域の政治経済の中枢として機能していたことが伺えます。現在も、船木地区には家庭裁判所と簡易裁判所が残っており、歴史の重みを感じることができます。

厚狭の寝太郎伝説と豊かな土地

船木、万倉、吉部は、山陽小野田市の厚狭地区・有帆地区と共に、『厚狭の寝太郎（三年寝太郎）』の説話にも登場します。この伝説では、ワラジに使われたワラは吉部産、船を作るための木は万倉地区にあった大きなクスノキとされています。万倉という地名は、肥沃な土地で米などの収穫が多く、隣接する宿場町・船木と共に栄えたことから、「蔵が万の数あるほど豊か」という意味合いも持っていると言われています。また、有帆地区からは佐渡へ向かう船が出航したという伝承も残っています。

行政と教育

1955年、船木町、吉部村、万倉村が合併して楠町が誕生しました。旧楠町役場は第1庁舎から第4庁舎まであり、合併後は宇部市楠庁舎として使用されてきました。1991年には北部総合支所が設置されましたが、老朽化のため2023年11月6日に楠総合センターに移転、旧役場庁舎は解体・売却されることになりました。教育面では町内に高校がなかったため、厚狭学区内の高校への進学が一般的でした。合併後の2016年の学区撤廃までは、山口市や下関市の高校へ通学する生徒もいました。

交通の要衝

楠町は、国道2号が東西を、山口県道29号宇部船木線、山口県道30号小野田美東線、山口県道37号宇部美祢線が南北を貫く交通の要衝でした。特に、中心地の船木は山陽道の宿場町であったため、これらの道路は比較的早くから整備され、宇部・小野田地区と萩・美東地区を結ぶ幹線ルートとして重要な役割を果たしていました。また、宇部・小野田市街から秋吉台方面へのアクセスも容易でした。かつては宇部から船木、万倉、吉部を結ぶ船木鉄道が運行されていましたが、1961年に廃止され、バス路線に転換されました。現在、最寄りの駅は山陽本線の宇部駅と小野田駅です。

名所旧跡

楠町には、岡崎八幡宮、宗方温泉、吉部の大岩郷など、多くの名所旧跡が存在します。また、赤間硯や琴といった特産品も有名でした。これらの資源は、楠町の豊かな歴史と文化を象徴するものです。

結論

楠町は、歴史と自然、そして人々の暮らしが織りなす魅力あふれる地域でした。神功皇后伝説に彩られた歴史、宿場町として栄えた船木、肥沃な土地の万倉、そして雄大な自然の吉部。これらの要素が複雑に絡み合い、独自の文化を形成していました。宇部市への編入後も、その歴史と文化は、宇部市の一部として受け継がれ、未来へと繋がることでしょう。

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