三年寝太郎

三年寝太郎

「三年寝太郎」は、日本の民話の一つで、一見怠惰に見える男が、実は深い思慮を持ち、最終的には村を救うという物語です。この物語は全国各地に様々なバリエーションが存在し、それぞれの地域で独自の解釈が加えられています。

あらすじ

一般的な「三年寝太郎」のあらすじは以下の通りです。

ある村で、旱魃（かんばつ）に苦しむ中、三年もの間寝続けている「寝太郎」という男がいました。村人たちは、何もせずにただ寝ている寝太郎を怠け者として非難していました。しかし、ある日突然、寝太郎は起き上がり、山へ登って巨石を動かします。その巨石が谷を転がり、川をせき止め、その結果、川の水が田畑に流れ込み、村は旱魃から救われます。実は、寝太郎はただ寝ていたのではなく、どのようにして灌漑を成し遂げ、村を救うかを考えていたのです。

厚狭の寝太郎

山口県山陽小野田市厚狭地区には、上記とは異なる「寝太郎」の物語が伝わっています。この物語では、寝太郎は庄屋の息子である太郎として登場します。

あらすじ

太郎は、庄屋の息子でありながら、ろくに仕事もせずに寝てばかりいるため、周囲からは「寝太郎」と揶揄されていました。しかし、3年3ヶ月の間寝続けた太郎は、ある日突然起き出し、父親に千石船と船いっぱいの草履を用意してくれるよう頼みます。父親は息子の頼みを叶え、船と草履を与えます。太郎は船で出航し、数十日後に戻ってきますが、船の中の草履はボロボロになっていました。

そこで太郎は、父親に大きな桶を用意してもらいます。太郎がボロボロになった草履を桶で洗うと、泥の中から砂金が見つかります。実は太郎は佐渡島へ行き、佐渡金山で働く人々の草履を無料で交換していたのでした。集めた砂金を元手に、太郎は堰を作り、灌漑水路を整備し、田畑を開墾して村人に分け与えました。

寝太郎の名残

厚狭地区を流れる厚狭川には、実際に寝太郎が集めた資金で整備したとされる「寝太郎堰」が現存しています。また、寝太郎は荒れ地を開墾した地元の英雄として称えられ、「寝太郎荒神社」という神社で祀られています。厚狭駅前には寝太郎の銅像が建てられ、毎年4月29日には「寝太郎祭り」が開催されています。

寝太郎のモデル

厚狭の寝太郎のモデルとして有力なのは、大内氏の家臣であった平賀清恒という人物です。平賀清恒は、父の死後、姉の嫁ぎ先である冷泉隆豊を頼って周防で大内氏に仕官しました。その後、大寧寺の変によって厚狭に逃れ、農作業を始めました。その際、水不足に苦しむ農民の姿を見て、3年3ヶ月もの間、灌漑工事について思案を重ねたと言われています。平賀清恒は佐渡の金山でわらじを交換し、砂金を集め、その資金で厚狭川の灌漑工事を行い、農民を救いました。しかし、その功績は、様々な事情から「平賀清恒」ではなく「寝太郎」として語り継がれるようになりました。また、江戸時代末期に編纂された「防長風土注進案」には、15世紀から16世紀ごろに寝てばかりで「寝太郎」と呼ばれていた男が、堰を作り、厚狭川から水を引き、周辺を開墾したという記録が残されており、この記録が厚狭の寝太郎伝承の基になったと考えられています。

沖縄の寝太郎

沖縄には、川平朝申が再話した「ねむりむし　じらぁ」という物語があります。これは、計略によって長者の婿になった貧乏な家の息子が、それをきっかけに働き始めるという話です。

関連事項

「三年寝太郎」のような物語は、日本だけでなく、世界各地にも存在します。以下に、無為の時代を経て活躍したとされる人物をいくつか紹介します。

威王: 中国の戦国時代の斉の王。9年間無為の時代があり、これが「鳴かず飛ばず」の故事成語の由来となっています。
荘王: 中国の春秋時代の楚の王。3年間無為の時代があり、こちらも「鳴かず飛ばず」の故事成語の由来となっています。
* エピメニデス: ギリシャ七賢人の一人。57年間寝ていたという伝説があります。

これらの事例からも分かるように、寝ている間にも何かを考えていたという設定は、昔から人々の関心を惹きつけてきました。「三年寝太郎」の物語は、単なる怠け者の話ではなく、深く思慮を巡らせ、時を待つことの重要性を教えてくれる教訓的な物語とも言えるでしょう。

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