榎美沙子

榎美沙子：奔放な活動家、そして謎の晩年

1945年生まれの榎美沙子（旧姓：片山、本名：木内公子）は、日本の女性解放運動史に特異な足跡を残した人物です。裕福な家庭に生まれ、京都大学薬学部を卒業後、製薬会社に就職。しかし、彼女の生涯は「可愛い奥さん」という当初の夢とは全く異なる方向へと進みます。

中ピ連と激しい活動スタイル

1960年代後半、榎美沙子は「ウルフの会」という女性解放団体に参加。そして1972年、彼女は「中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合」（中ピ連）を結成し、代表に就任します。ピンクのヘルメットを着用した街宣活動や、不倫相手への集団抗議など、過激でセンセーショナルな活動スタイルは大きな注目を集めました。

しかし、当時のピルは副作用が強く、性病の蔓延を助長する可能性も指摘されていたため、運動の勢いは次第に衰え、1975年には中ピ連は解散。中ピ連の活動は、女性の権利向上という面では一定の成果を残した一方で、その過激な手法から批判も浴びました。当時、避妊薬の普及が遅れていた社会情勢や、女性の健康に関する情報提供の不足などが、運動の限界を作った可能性も考えられます。

日本女性党と選挙への挑戦、そして挫折

中ピ連解散後、榎美沙子は「女性復興教」を興し教祖となり、1977年には日本女性党を結成して参議院選挙への進出を目指します。しかし、派手な選挙活動にもかかわらず、彼女は自身は立候補せず、党は開票後わずか2日で解散。この行動は他の女性解放運動家から強い批判を受け、党の瓦解を招きました。特に、選挙に立候補した他の女性運動家からは、自身の立候補を回避した点や、男性排除を掲げた運動方針について、強い非難が集中しました。結果として、この選挙活動は、日本の女性解放運動全体のイメージを損ねる結果となってしまったのです。

また、製薬会社や政治家との癒着疑惑も取り沙汰され、党内からも離反者が出ました。選挙における彼女の奇抜なパフォーマンスと、党運営上の問題点が重なり、日本女性党は失敗に終わります。

晩年の謎とその後

選挙の失敗後、榎美沙子は夫の勧めで家庭に入り、薬剤師として働くようになりました。その後、離婚を経て、一人暮らしを始め、司法試験の勉強を始めたという報道もありました。しかし、その後彼女の消息は途絶え、親族もその行方を知らないといいます。2024年に発表された桐野夏生氏の小説『オパールの炎』は、彼女をモデルにしていると言われますが、その後の足取りは依然として不明のままです。

評価と遺産

榎美沙子の活動は、当時社会にほとんど知られていなかったウーマンリブ運動を広く認知させるきっかけとなったという見方もあります。しかし、同時に、彼女の型破りな行動は、世間に奇矯なイメージだけを残す結果ともなりました。彼女の人生は、成功と失敗、そして謎に包まれた晩年という、複雑で魅力的な物語として、現代社会においてもなお議論の的となっています。

主な著書・出演

『ピル』（カルチャー出版社）
『ピルの本』（大陸書房）
『女から女たちへ　アメリカ女性解放運動レポート』（共訳、合同出版）
テレビドラマ『夜明けの刑事』（TBS） - 本人役出演

もう一度検索