構造エンジニア

構造エンジニア：建築物の安全を守る技術者

構造エンジニアとは、地震や強風などの外的要因による損壊を防ぐため、建築物の強度に関する技術的な問題解決を行う専門家のことです。時に「構造家」と呼ばれることもあります。建築物の設計において、意匠設計者や設備・施工・積算などの他の建築系エンジニアとは明確に区別される役割を担っています。土木構造物分野では、この呼称はあまり用いられません。

構造エンジニアの重要性は、朱鷺メッセの連絡橋落下事故のような構造不備による事故の調査や予防に表れています。こうした事故を防ぎ、建築物の安全性を確保することが、構造エンジニアの重要な使命です。

しかしながら、構造エンジニアの定義は必ずしも明確ではありません。「ジェネラリスト」と自称する者や、「アーキテクト」と名乗る者もいます。中には、構造設計に加え、雑務も担当する者もいるため、職務範囲は多様です。

日本の構造エンジニアの歴史は古く、1916年に佐野利器が「家屋耐震構造論」で工学博士号を取得して以来、内田祥三、内藤多仲、武藤清といった多くの先駆者たちがその発展に貢献してきました。近年では、金箱温春、今川憲英、佐々木睦朗、新谷眞人といった著名な構造エンジニアが活躍しています。木村俊彦氏のように、作品集を出版する構造エンジニアも存在します。

構造エンジニアの専門性を示す指標として、日本建築構造技術者協会が主催するJSCA賞、過去の松井源吾賞、そしてそれを継承する日本構造デザイン賞といった賞が設けられています。

国内において、構造エンジニアは建築士資格を有することが一般的です。規模の大きな建築物では、構造設計一級建築士の資格が求められます。その他、専攻建築士（設計・構造）、APEC ENGINEER（Structural）、JSCA[[建築構造士]]、技術士（建設部門）など、関連資格も多数存在します。

構造エンジニアの主な業務は、エンジニアリング設計と構造解析です。経験の浅い構造エンジニアは、梁や柱といった個々の構造要素の設計を担当することが多い一方、経験豊富なエンジニアは、建物全体の構造設計と安全性の確保に責任を負います。

構造エンジニアが扱う対象は多岐に渡り、建物、橋、パイプライン、産業施設、トンネルなどが挙げられます。さらに、自動車、船舶、航空機、宇宙船といった乗り物の構造を専門とする者もいます。建物専門のエンジニアの中には、コンクリート、鉄鋼、木材など特定の材料や、オフィスビル、学校、病院、住宅といった特定の建物タイプに特化する者もいます。

構造工学自体は人類が構造物を作り始めた時から存在しましたが、専門職としての構造エンジニアは19世紀後半の産業革命期に明確に定義づけられました。それ以前は、建築家と構造エンジニアの役割はほぼ同一でしたが、19世紀から20世紀初頭にかけて構造理論に関する専門知識が発展したことで、プロの構造エンジニアが誕生しました。

現代の構造エンジニアは、静的荷重と動的荷重の両方を考慮し、それらに耐えうる構造を設計する必要があります。現代建築の複雑さから、構造エンジニアには高い創造性と専門知識が求められます。

一般的に、構造エンジニアになるには4年または5年の工学系の学士号を取得した後、最低3年間の専門的な実務経験が必要です。世界中の多くの学協会や国内規制機関によって認定または認可されています。資格や免許の取得条件は国によって異なりますが、構造エンジニア、土木エンジニア、あるいはその両方として認定される場合があります。

アメリカ合衆国では、構造エンジニアとして活動するには、州が定める免許（SEライセンス）の取得が必須です。これは、土木エンジニアの資格であるPEライセンスと類似していますが、一部の州では構造工学に特化したSEライセンスが別途必要です。これは、建築構造物に関する一定規模の実務経験と、専門家としての責任を負うためです。

ライセンス取得には、最低限の実務経験、国家試験、場合によっては州独自の試験の合格が必要となります。カリフォルニア州などでは、特定規模の建物の構造設計を行うには、NCEES（国家試験評議会）が実施する国家試験に合格する必要があります。地震学や測量に関する州独自の試験もある場合もあります。アラスカ、カリフォルニア、ハワイなど一部の州では、個別の構造エンジニアライセンスは存在せず、土木エンジニアのライセンスを取得した上で、追加の資格や権限を得る必要があります。そのため、SEライセンスを持たない構造エンジニアが設計できる範囲は、州によって大きく異なります。

国際機関としては、IABSE（橋と構造工学のための国際協会）などが存在し、構造工学の発展と知識共有に貢献しています。

APECエンジニア制度では、建築構造分野におけるAPECエンジニア資格は、一級建築士のうち建築構造に関する実務を行う者に開放されています。資格取得には、認定されたエンジニアリング課程の修了、一定期間の実務経験、専門能力開発の証明などが求められます。

もう一度検索