横尾広光

横尾 広光（よこお ひろみつ）は、1943年10月4日から2013年10月30日まで生きた、日本の高名な天文学者であり、科学史および宇宙文明論の研究家としても活躍しました。彼には、同じく天文学者で大阪教育大学名誉教授である横尾武夫氏という兄がいます。

経歴

横尾氏は大阪府池田市に生まれました。地元の大阪府立池田高等学校を卒業後、1967年に大阪大学理学部物理学科で学びました。その後、東京大学大学院理学系研究科の天文学専門課程に進学し、修士課程を修了して理学修士の学位を取得しています。大学院修了後の1974年からは、杏林大学医学部の物理学教室に勤務し、教育・研究活動を行いました。

研究と主な業績

1970年代に入ると、横尾氏はそれまでの天文学研究に加え、天体物理学の歴史や、地球外生命および地球外知的生命体探査（SETI）といった分野に強い関心を抱くようになります。彼はこれらのテーマについて深く掘り下げ、数多くの研究会や学会において、従来の枠にとらわれない独創的な着想に基づいた研究成果を積極的に発表しました。

特に、彼の研究の中でも広く知られるようになったのは、大腸菌に感染する特定のウイルスの遺伝子配列の中に、地球外文明からのメッセージが符号化されている可能性を探った論文です。この研究は、その斬新さゆえに発表当初は賛否両論を巻き起こしましたが、最終的には権威ある国際的な学術誌『Icarus』に掲載されるという成果を収めました。宇宙論研究で世界的に著名なカール・セーガン博士は、この横尾氏のユニークな論文に強い関心を示し、その内容はニューヨーク・タイムズ紙でも紹介されたと伝えられています。

横尾氏はまた、地球外文明に関する人類の思想の歴史的変遷を深く掘り下げ、その研究成果を『地球外文明の思想史：多数世界論か唯一世界論か』という著書として結実させました。この著作は、地球外生命探査の歴史や哲学的な背景を理解する上で重要な文献となっています。

さらに、彼は科学史家としての顔も持ち合わせていました。火星研究や能登訪問による日本人論で知られるアメリカの天文学者、パーシヴァル・ローウェルへの敬意から、彼を顕彰する目的で設立された「日本ローエル協会」の発足にも、横尾氏は中心的な役割を果たし貢献しました。また、1920年代に天体衝突の先駆的な模擬実験を行ったものの、その業績が長らく忘れられていた日本の物理学者、鈴木清太郎氏の研究を掘り起こし、学界に再び光を当てたことも彼の重要な功績の一つとして挙げられます。

横尾広光氏は、純粋な天文学研究に加え、科学史や地球外生命といった当時としてはまだ学際的であった分野を開拓し、独創的な視点から多くの貢献をしました。彼の研究姿勢は、既成概念にとらわれず真理を探求する科学者の鑑といえるでしょう。

著書・翻訳書

清水幹夫編（1979）：『惑星探査と生命』（共著）、恒星社。
J. シュワルツ 著、横尾広光訳（1980）：『地球の学校 : 地球儀であそぼう』、東京図書。
P. マーディン・L. マーディン著、 杉本大一郎・横尾広光訳（1981）：『新しい天文学: 超新星が開いた宇宙像』(岩波現代選書)、岩波書店。
横尾広光（1991）：『地球外文明の思想史: 多数世界論か唯一世界論か』、恒星社厚生閣。

横尾氏は、これらの多岐にわたる研究活動を通じて、日本の天文学と科学史の発展に寄与しましたが、2013年10月30日にその生涯を閉じました。

もう一度検索