樺岡駅

北海道北部の稚内市、かつて広大な酪農地帯だった場所に、樺岡駅（かばおかえき）は位置していました。この駅は、日本国有鉄道、後の北海道旅客鉄道が運営した天北線の駅でしたが、平成元年の路線廃止に伴い、その歴史を閉じました。電報略号は「カハ」でした。

樺岡駅の開業は、大正11年11月1日に遡ります。当時の鉄道省宗谷本線の延伸区間である鬼志別から稚内（現在の南稚内）間に設けられた一般駅として産声を上げました。その後、路線の改称を経て、昭和5年からは北見線、昭和36年からは天北線の一部となります。昭和24年には国鉄の駅となり、昭和28年度にはそれまで無電燈だった駅舎に電燈が灯りました。駅機能は時代の変化と共に縮小され、昭和48年9月17日には貨物・荷物取扱と窓口業務が廃止され、駅員が常駐しない無人駅（簡易委託駅）となりましたが、列車交換のための運転要員は引き続き配置されていました。しかし、昭和61年11月1日には交換設備が撤去され、閉塞扱いも廃止。これにより完全に駅員がいなくなり、簡易委託による業務も終了して完全無人駅となります。国鉄民営化を経て昭和62年4月1日からはJR北海道の駅として引き継がれましたが、平成元年5月1日に天北線の全線が廃止されたため、約67年間の駅としての役割を終えました。

樺岡という駅名の由来については、いくつかの説が存在します。昭和48年に国鉄北海道総局が発行した『北海道 駅名の起源』では、駅の近く一帯にカバ（樺の木）が多く茂っていたことに由来する、日本語による命名であるとされています。一方、アイヌ語研究者の更科源蔵氏らは、駅から南に約2.5キロメートル離れた場所を流れるタツニウシナイ川のアイヌ語名「タッニナルㇱナイ」（tat-ninar-us-nay：「樺の・岡に・ある・川」の意）や「タッニウㇱナイ」（tatni-us-nay：「樺の木・群生する・川」の意）を和訳したものではないかと推測しています。さらに古い昭和14年の鉄道省札幌鉄道局編纂『駅名の起源』でも、「タツ、ニナラ、ウシナイ」〔ママ〕からの借用であり、（樺の高原なる川）の意であるとして、アイヌ語地名が起源であるという説を支持しています。これらのことから、樺岡という駅名は、単に日本語でカバの多い場所を指したのではなく、この地の特徴を表すアイヌ語地名がその起源である可能性が高いと考えられます。

樺岡駅は、廃止される時点では1面1線の単式ホームと線路を持つ地上駅でした。しかし、かつては列車が行き違い可能な交換駅であり、相対式の2面2線構造でした。当時の駅舎側（東側）にあるホームが上り1番線、その向かい側にあるホームが下り2番線として使用されていました。これらのホームは、駅舎側のホームの中央部分と対向側のホーム北側を結ぶ構内踏切で連絡されていました。駅舎については、無人化された後も有人駅として使われていた時代の木造建築がそのまま残り、ホームの中央部に隣接していました。記録によると、昭和58年（1983年）頃には、駅舎側のホームに約500本のルピナスが植えられた美しい花壇があり、夏には一斉に色鮮やかな花を咲かせていたことが知られています。

樺岡駅の周辺は、かつては広大な土地を利用した酪農が盛んな地域でした。しかし、時代の流れと共に離農が進んだ結果、現在では集落の維持が難しい「限界集落」の様相を呈しています。駅があった場所の周辺には、残念ながら当時の賑わいはなく、かつて子供たちの声が響いた樺岡小中学校の跡地と、宗谷バスの「樺岡」停留所が残るのみとなっています。駅跡地自体は現在、自然に還り原野となっていますが、平成23年（2011年）時点では、かつて使われていた本物の駅名標が、駅跡から少し離れた道路沿いの宗谷バス停留所に移設されて残されているのが確認されています。これは、樺岡という地にかつて鉄道駅があったことを今に伝える貴重な存在となっています。隣の駅は、音威子府方面に向かって沼川駅、稚内方面に向かって恵北駅でした。

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