橘奈良麻呂の乱

橘奈良麻呂の乱

橘奈良麻呂の乱は、奈良時代の天平勝宝9年（757年）に発生した政変です。橘奈良麻呂が、藤原仲麻呂を排除しようと計画し、孝謙天皇の廃位まで企てましたが、事前に露見し、未遂に終わりました。

事件の背景

橘氏の台頭と衰退

橘奈良麻呂の父である橘諸兄は、聖武天皇の時代に左大臣として政権を担っていました。しかし、聖武天皇が病に倒れた際、奈良麻呂は次期天皇に黄文王を擁立しようと画策します。当時、皇太子には阿倍内親王（後の孝謙天皇）が立てられていましたが、奈良麻呂は「皇嗣を立てる必要はない」と主張し、男性皇位継承を望む動きがありました。聖武天皇の譲位後、孝謙天皇が即位すると、藤原仲麻呂が台頭し、橘氏の勢力は次第に衰退していきました。藤原氏の勢力拡大に危機感を抱いた奈良麻呂は、孝謙天皇即位の大嘗祭で、再び謀反を計画しますが、協力者を得られず失敗しました。

藤原仲麻呂の台頭

孝謙天皇の即位後、藤原仲麻呂は光明皇太后の信任を得て紫微中台の長官に任命され、急速に力を増していきます。仲麻呂は孝謙天皇からも寵愛を受け、政権内で大きな影響力を持つようになりました。一方、橘氏は次第に勢力を失い、奈良麻呂は藤原氏の台頭に強い危機感を抱くようになります。

橘諸兄の失脚と奈良麻呂の決意

755年、橘諸兄が朝廷を誹謗したとの密告があり、聖武太上天皇はこれを不問としましたが、翌年、諸兄は辞職に追い込まれます。聖武太上天皇の崩御後、道祖王が立太子されましたが、後に廃されます。父である橘諸兄の失脚と、道祖王の廃太子は、奈良麻呂の行動を加速させる要因となりました。諸兄の死後、奈良麻呂は仲麻呂を打倒する決意を固め、同志を集め、反乱計画を具体化させていきます。

陰謀の発覚

密告

757年6月、山背王が孝謙天皇に、奈良麻呂が兵を率いて仲麻呂の邸を包囲しようと計画していると密告しました。これにより、奈良麻呂の陰謀が発覚することになります。

挙兵計画

密告を受けた奈良麻呂は、大伴古麻呂、小野東人、黄文王、安宿王らと太政官院に集まり、7月2日に挙兵することを誓約します。しかし、この計画は事前に漏れており、孝謙天皇と光明皇太后は、諸臣に対して謀反を企てないよう詔勅を出しました。また、光明皇太后は藤原氏や大伴氏など、各氏族に天皇を助けるよう諭しました。

計画の露見と逮捕

7月2日、中衛府の舎人上道斐太都から仲麻呂に、小野東人が謀反に加担するよう誘われたとの密告がありました。仲麻呂は直ちに孝謙天皇に報告し、中衛府の兵を動員して小野東人らを逮捕しました。その後、拷問を受けた東人は、奈良麻呂らの謀反計画を自白しました。

過酷な処分

拷問と死

小野東人の自白により、奈良麻呂、道祖王、黄文王、大伴古麻呂、多冶比犢養、賀茂角足らが逮捕されました。彼らは拷問を受け、道祖王、黄文王、大伴古麻呂、小野東人、多冶比犢養、賀茂角足は、拷問に耐えかねて次々と絶命しました。首謀者である奈良麻呂も拷問死したと考えられています。

関係者の処分

安宿王は佐渡島に、大伴古慈悲は土佐国に配流され、後に赦免されました。塩焼王は事件への直接関与がなかったため不問とされましたが、後に臣籍降下しています。反乱計画に直接関与していなかった佐伯全成も捕縛され、自害しました。他にも、多数の役人がこの事件に関与したとして処罰されました。

元号の改元

一連の処分が終了した後、孝謙天皇は元号を「天平宝字」と改元し、体制の立て直しを図りました。

その後

仲麻呂の専横

橘奈良麻呂の乱により、仲麻呂は政敵を一掃し、権力をさらに強めます。758年、大炊王（淳仁天皇）が即位すると、仲麻呂は太保（右大臣）に任じられ、恵美押勝の名を与えられました。760年には太師（太政大臣）にまで昇り詰め、栄華を極めました。

仲麻呂の失脚

しかし、仲麻呂の栄華は長くは続きませんでした。孝謙上皇の寵愛が弓削道鏡に移ると、仲麻呂は764年に乱を起こし、敗れて一族は滅亡しました。

事件の意義

橘奈良麻呂の乱は、藤原氏の台頭と、それに反発する勢力との間で起きた政治闘争を象徴する出来事です。この事件は、奈良時代の政治史において重要な転換点となり、その後の政治情勢に大きな影響を与えました。


この事件は、権力闘争の激しさ、密告、拷問といった古代日本の政治の裏側を垣間見ることができる、重要な歴史事件です。

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