紫微中台

紫微中台とは

紫微中台（しびちゅうだい）は、749年（天平勝宝元年）に設置された、日本の律令制度における令外官の一つです。表向きは皇太后の家政機関として位置づけられていましたが、実際には光明皇太后の信任を得ていた藤原仲麻呂が指揮する政治・軍事機関としての役割を担っていました。後に坤宮官（こんぐうかん）と改称されます。

紫微中台の成立

紫微中台は、光明[[皇后]]が皇太后となったことを契機に設置されました。729年（天平元年）に藤原光明子が皇后に立てられた際、その家政機関として皇后宮職が設けられましたが、749年（天平勝宝元年）に聖武天皇が譲位し、娘の孝謙天皇が即位すると、光明[[皇后]]は皇太后となります。病弱で政治への意欲を失っていた聖武天皇の譲位と、後継者となるべき男子も兄弟もいない独身の孝謙天皇の即位は、当時の政治情勢を不安定なものにしていました。このような状況下で、光明皇太后は、新帝を後見し朝廷を統制する必要に迫られました。

そこで、皇后宮職を改組し、唐の制度に倣った紫微中台を設置しました。紫微中台という名称は、唐の玄宗皇帝時代に中書省を改称した紫微省と、則天武后の執政時代に尚書省を改称した中台に由来します。この名称からもわかるように、紫微中台は単なる家政機関ではなく、太政官とは独立した国政機関としての役割を意図していました。紫微中台は、皇太后の命令（令旨）を施行し、兵権を発動する権能を持ち、長官である紫微令には、皇太后の甥にあたる藤原仲麻呂が任じられました。仲麻呂は中衛大将も兼務し、軍事力も掌握しました。当時の太政官は、皇太后の異父兄である橘諸兄が左大臣、甥である藤原豊成が右大臣を務めていましたが、皇太后の信頼は、学識に優れ中国の制度や文化に通じていた仲麻呂に寄せられていました。

紫微中台の権限強化

757年（天平勝宝9歳）には、紫微令が準大臣待遇の紫微内相に改められ、紫微中台の権限はさらに強化されました。紫微中台は、太政官の大臣が持つ内外の諸兵事を管掌し、太政官や中務省を経ずに直接詔勅を実施する権限を得ました。これは、当時の太政官を巻き込んだ反仲麻呂・反孝謙天皇の動き（橘奈良麻呂の乱）に備えたものと考えられています。

坤宮官への改称とその後

758年（天平宝字2年）に淳仁天皇が即位すると、その夫人（前夫の父）であり、淳仁を後見してきた仲麻呂の立場はさらに強固なものとなりました。仲麻呂は、官職の唐風改称を行い、紫微中台を坤宮官と改称しました。坤宮官は、「居中奉勅、頒下諸司」という役割を担い、孝謙上皇と淳仁天皇の詔勅を紫微内相が奉じて、太政官（乾政官）に代わって直接下達・実行させる権限を持ちました。これにより、坤宮官は名実ともに太政官と並ぶ機関となりました。

しかし、創設以来長官を務めていた仲麻呂が同時に大保（右大臣を改称）に転じ、乾政官の首班となると、紫微内相は空位となり、坤宮官の重要性は次第に低下していきました。760年（天平宝字4年）に光明皇太后が死去すると、坤宮官は廃止されました。

坤宮官の廃止の影響

坤宮官の廃止は、仲麻呂にとって大きな打撃となりました。乾政官から独立した軍事力と詔勅下達権限を有していた坤宮官の存在は、仲麻呂政権を支える重要な要素でした。坤宮官の廃止は、その後の仲麻呂政権崩壊の遠因にもなりました。仲麻呂を倒した称徳天皇（孝謙上皇重祚）は、紫微中台に倣った独自の軍事組織として内豎省を設置しています。

坤宮官の職員

紫微令（正三位相当）→紫微内相（757年から）
大弼（2人、正四位下相当）
少弼（3人、従四位下相当）
大忠（4人、正五位下相当）
少忠（4人、従五位下相当）
大疏（4人、従六位上相当）
少疏（4人、正七位上相当）
使部
* 直丁

まとめ

紫微中台は、光明皇太后の権威を背景に、藤原仲麻呂が実質的に支配した政治・軍事機関でした。その後の坤宮官への改称、そして廃止は、当時の政治情勢を色濃く反映しており、律令制度における令外官のあり方、そして藤原氏の権力闘争を理解する上で、重要な事例の一つと言えるでしょう。

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