歌川国政 (5代目)

五代目 歌川国政

五代目歌川国政（ごだいめ うたがわ くにまさ）は、明治時代に活躍した浮世絵師である。竹内柳蛙（たけうち りゅうあ）の別名でも知られる。生没年は明らかではない。特に「小国政」という名跡との関係性が複雑で、同一人物であるかについては現在も議論が残されている。

来歴

五代目国政は、四代目歌川国政の長男であり、父から絵を学んだ門人であった。竹内氏を称した。号は梅堂、楳堂、小国政、香朝楼、柳蛙など複数の名を用いたことが確認されている。

その活動時期において、使用する名跡や号は変遷している。明治22年（1889年）から明治29年（1896年）頃にかけては、主に「楳堂」あるいは「梅堂小国政」と称して作品を発表していた。しかし、その期間中の明治24年（1891年）頃には、歌川国政の名跡を五代目として継承し、「五代目国政」の落款を用いた作品も制作している。さらに、明治28年（1895年）以降になると、四条派の画家である飯島光峨（いいじま こうが）に師事し、以降は「竹内柳蛙」と名乗るようになった。

小国政と五代目国政の関係については、その詳細が明らかになっていない点がいくつか存在する。「五代目国政筆」と署名された作品が確認された後にも、「小国政」名義の作品が多数発表されているためである。このことから、美術史家の七戸吉三（しちのへ きちぞう）氏によって小国政は五代目国政とは別人であるとする説も唱えられており、同一人物であるとするにはなお疑問が残るとされている。明治24年頃を境に五代目国政の名跡を継いだが、その後も小国政の名を使い分けたのか、あるいは後年の小国政は五代目国政とは別の人物であったのか、その正確な関係性は不明である。

没年についても明確な資料は見つかっていないが、大正12年（1923年）に発生した関東大震災以前に亡くなったとする見方が有力である。

作品

五代目歌川国政（および小国政、柳蛙）は、明治期における社会的な出来事や大衆文化を反映した作品を多く手掛けた。政治的な式典、天災、歌舞伎役者、そして国内外の戦争などを題材とした錦絵がある。

小国政名義の作品としては、明治22年（1889年）の「大日本憲法発布式之図」（大判3枚続）や、明治24年（1891年）の濃尾地震を描いた「岐阜県愛知県大地震実況」（大判3枚続）などが知られる。また、同時期の歌舞伎興行を描いた「明治座開場之図」（大判3枚続、明治26年）などもある。日清戦争に関する錦絵も制作しており、明治27年（1894年）の「日清海戦大孤山沖大激戦大日本海軍大勝利之図」（大判6枚続）には小国政の落款が見られる。

一方、国政名義の作品としては、明治24年（1891年）のロシア皇太子（後のニコライ2世）来訪を描いた「魯国皇太子御着之図」（大判3枚続）や、明治26年（1893年）のオーストリア皇族来訪を描いた「澳国皇族新橋御入京図」（大判3枚続）などがある。

柳蛙名義の作品は、日露戦争期（明治37年以降）に多く見られる傾向がある。例えば、明治37年（1904年）の「日露旅順口海戦帝国海軍大勝利万歳」（大判6枚続）には小国政の落款が用いられているが、柳蛙名義でも日露戦争に関する作品を多数描いているとされる。また、歌舞伎役者の死絵も手掛けており、三代目河原崎国太郎や五代目尾上菊五郎、九代目市川団十郎などの死絵が知られている。

作品に見られる落款名義の変遷は、五代目国政、小国政、柳蛙といった複数の名跡・号を使い分けた彼の活動の複雑さを示している。

参考文献

• - 七戸吉三 「歌川国政（附小国政）」 『浮世絵志』第3号から第5号 芸艸堂、1929年
• - 日本浮世絵協会編 『原色浮世絵大百科事典』第2巻 大修館書店、1982年
• - 吉田漱 『浮世絵の見方事典』 北辰堂、1987年
• - 悳俊彦「残照の中の浮世絵師達 江戸っ子を自認した町絵師・竹内柳蛙」 国際浮世絵学会『浮世絵芸術』144号所収、2001年

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