芸艸堂

芸艸堂（うんそうどう）は、京都に本社を置く、美術書出版株式会社として登記されている日本の出版社です。創業は1891年（明治24年）に山田直三郎によって京都市寺町二条下ルに設立され、江戸時代から続く伝統的な木版印刷技術を主軸としています。日本で唯一、手摺木版による和装本を専門に刊行する出版社として知られています。

創業者の山田直三郎の父は本田吉兵衛といい、二条寺町で和本製本業を営んでいました。直三郎は吉兵衛の次男として生まれました。当初、吉兵衛の隠居後、1887年（明治20年）には長男の市次郎と三男の金之助が雲錦堂という出版社を設立し、染色図案集の出版を始めました。これは、京都が友禅染や西陣織の特産地であり、豪華な意匠図案の需要を見込んだもので、出版業に加え、錦絵や雑誌類の販売も行っていました。

芸艸堂という社名は、富岡鉄斎によって命名されたもので、「芸艸かほりくさ此艸を書籍にはさみおくと虫が喰わぬとて古来書物屋の号によしと聞く」という逸話に由来します。創業当初は、直三郎の妹であるあいも経営を手伝っていましたが、後に田畑氏に嫁ぎました。直三郎は、1895年（明治28年）の第4回内国勧業博覧会で、木版画譜が「印刷精巧にして木版の彫刻亦佳良なるを見る」と評価され、有功三等を受賞しました。さらに、1903年（明治36年）の第5回内国勧業博覧会では「絹地木版印刷」で三等賞を受賞しました。

高島屋呉服店が「縞」の新作図案を懸賞募集した際、図案家たちが集められ、雲錦堂と芸艸堂の間で激しい競争が繰り広げられました。当初は図案家の支持を集めていた雲錦堂が優勢でしたが、芸艸堂も巻き返しを図り、高島屋も対応に苦慮しました。最終的には、飯田社長の仲介と沢渡源兵衛氏、宮脇新兵衛氏の協力により和解が成立し、これを機に芸艸堂と雲錦堂の統合へと進展しました。1906年（明治39年）2月11日、紀元節を機に両社は合併し、合名会社芸艸堂として新たなスタートを切りました。この際、神坂雪佳が描いた絵草紙売り図を木版摺りした合併案内状が配布されました。

合併後は、兄弟3人が協力して経営を行い、自社出版に加え、大阪の青木嵩山堂、松村九兵衛、東京の吉川弘文館、大倉書店、永東書店、名古屋の片野東四郎（永楽堂）、京都の田中治兵衛（文求堂）など、著名な書肆の版木を買収し、染色出版の先鞭をつけ、京都の出版界で存在感を増していきました。

浮世絵版画の衰退とは対照的に、明治20年代以降の木版印刷は、芸艸堂の活動に見られるように、図案集の分野で伝統木版の彫師や摺師の高度な技術が発揮され、多色摺の木版画譜が多数出版されました。職人たちは、伝統技術を活かした新たな木版の価値を見出していました。この時期に活躍した彫師には、藤村新治郎、山本次吉、喜多川英二郎、木下猶之助がおり、摺師には高木源助、岸太根吉、椙本喜一、竹中清八、佐々木米次郎などがいました。

また、芸艸堂は『美術海』、『新美術海』、1906年の『精英』（古谷紅麟ら）、神坂雪佳の『精華』（1894年から1895年）、『染色図案 海路』（1902年）、『蝶千種』（1904年）、『百々世草』全3巻（1909年から1910年）、津田青楓の図案集『落柿』（1906年）など、優れた色調の出版物を手がけました。特に『百々世草』は琳派の装飾性を継承した作品として特筆されます。1909年（明治42年）には河鍋暁斎の『鷹かゞみ』、『暁斎画談』を出版しました。この頃から1916年（大正5年）にかけて、『うなゐの友』、『能楽装束大観』、『古制徴証』、『徴古帖』、『染色大鑑』、『昔渡更紗』、『四季の花』、『西洋草花図譜』、『雛百種』、『綾錦』など、多岐にわたる分野の出版物を手がけました。

1918年（大正7年）には、東京府湯島に支店を設けるまでに成長しました。この東京支店は、1923年（大正12年）の関東大震災で被災しましたが、すぐにバラックで再開しました。また、大正時代からは、新版画に分類される樋口富麿、池田瑞月、浅野竹二、岡田行一、加藤晃秀、土屋楽山らの木版画を出版しました。

1945年、東京大空襲によって東京支店、工房、倉庫が全焼し、製版や版木などを焼失しましたが、同年頃から笠松紫浪の風景画（新版画）を100点ほど出版しました。1947年には東京支店を再建し、1953年には株式会社に組織変更しました。1990年には、世界最大級の版画『孔雀明王像』を木版摺で再現するなど、現在も出版活動を続けています。

もう一度検索