歌川国長

歌川国長（うたがわくになが）

歌川国長（生没年不詳）は、江戸時代後期に活躍した浮世絵師です。初代歌川豊国の門人であり、その画才を発揮しました。

人物

国長の俗称は梅干之助（ほやのすけ）。一雲斎とも号しました。『無名翁随筆』によれば、彼は江戸の芝口三丁目（現在の新橋駅東口付近）に生まれ、後に金六町（現在の銀座八丁目付近）へ移り住んだとされています。

彼は特に「組上燈籠絵」や「細かき細工物に組上げる錦絵」、つまり立版古（たてばんこ）と呼ばれる種類の絵を得意としていました。また、酒席での振る舞いにも長けていたようで、幇間（ほうかん）の桜川善孝や甚幸といった人物と親交があったと伝えられています。

国長の作画期は、享和から文化年間にかけて。黄表紙や合巻の挿絵、役者絵、美人画、名所の浮絵、さらには外国の風景を描いた作品も残っています。特に、『七奇図説』に基づいた世界の七不思議を描いた横大判の錦絵は、同門の歌川国虎の作品と並んで異彩を放っています。

『増訂浮世絵』には、国長が描いた6尺（約2メートル）を超える大美人図が存在したと記されています。

没年について

国長の没年については、はっきりとしたことは分かっていません。『東京美術家墓所誌』には文政10年（1827年）7月18日とありますが、文政11年に建てられた初代豊国の筆塚に国長の名前があることから、この頃まで存命していた可能性も指摘されています。

『浮世絵師伝』は文政12年に40歳過ぎで没したとしていますが、その根拠は不明です。『無名翁随筆』には「文化ノ末ヨリ文政ニ歿ス、四十余」と記されています。

墓所は築地円正寺にあり、無縁塔に合祀されています。戒名は釈清順居士です。

作品

版本挿絵

『匂ひ嚢』 洒落本 ※塩屋艶二作、享和元年序
『敵討旭霜解』 黄表紙 ※面徳斎夫成作、文化3年
『玉櫛笥二人奴』 黄表紙 ※十返舎一九作、文化3年（1806年）刊行
『運輝長者之万燈』 合巻 ※関亭伝笑作、文化10年
『恋女房讐討双六』 合巻 ※姥尉輔作、刊行年不明

錦絵

「京町壱丁目若松屋内 緑木 かめし いわみ」 大判錦絵 ボストン美術館所蔵
「京町壱丁目大もんじや内 一もと せんかく ばんき」 大判錦絵 ボストン美術館所蔵
「新吉原角町松葉屋内 代々とせ はつね こてう」 大判錦絵 ボストン美術館所蔵
「二世沢村田之助死絵」 大判錦絵 早稲田大学演劇博物館所蔵 ※文化14年（1817年）
「新板阿蘭陀浮画 阨日多国尖形高台」 横大判錦絵5枚揃の内 ※エジプトのピラミッドを描く。
「新板阿蘭陀浮画 亜細亜洲巴必鸞城」 横大判錦絵5枚揃の内 東京国立博物館所蔵 ※バビロンの空中庭園。
「新板阿蘭陀浮画 亜細亜洲茅索禄王塋墓」 横大判錦絵5枚揃の内 ※マウソロス霊廟。ただし描かれているのは『七奇図説』によればアルテミス神殿である。
「新板阿蘭陀浮画 欧邏巴洲石造供木星人形」 横大判錦絵5枚揃の内 ベルリン東洋美術館所蔵 ※「木星人形」とはオリンピアのゼウス像のことだが、この絵の内容は「木星人形」ではない。
「新板阿蘭陀浮画 楽徳海嶋銅巨人像」 横大判錦絵5枚揃の内 ボストン美術館所蔵 ※ロドス島の巨像。
「新板浮絵江戸名所八景 上野ノ晩鐘」 横大判錦絵揃物の内 東京都立図書館所蔵
「新板浮絵江戸名所八景 浅草観音奥山ノ落雁」 横大判錦絵揃物の内 ボストン美術館所蔵

肉筆画

「雪中美人図」 紙本着色 東京国立博物館所蔵
「美人立姿図」 絹本着色 ニューオータニ美術館所蔵
「菖蒲と武家奥方図」 紙本着色 奈良県立美術館所蔵
「椿と花魁図」 紙本着色 奈良県立美術館所蔵
「鮎釣る美人図」 紙本着色 奈良県立美術館所蔵
「美人舞姿図」 紙本着色 奈良県立美術館所蔵


歌川国長の作品は、国内外の美術館や博物館に所蔵されており、その卓越した画技を今に伝えています。

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