歌川芳信

歌川芳信（生没年不詳）は、江戸時代に活躍した浮世絵師です。彼は、人気浮世絵師であった歌川国芳の門人として知られ、歌川の画姓を名乗り、一礼斎、一慶斎という号も使用していました。

当時の資料『市中取締書留』に収録された「浮世画工名前書」には、芳信の俗名が芳兵衛であり、坂本町二丁目（現在の日本橋兜町）に居住していたことが記されています。

芳信の作画期は、嘉永年間から文久年間にかけてと推定されており、特に文久期には横浜絵を多く描いたことで知られています。横浜絵とは、開港後の横浜を舞台に、異国情緒あふれる風景や人物を描いた浮世絵の一種です。芳信の作品にも、異国人物を描いたものが多く残されています。

現存する作品としては、以下のようなものが確認されています。

「農家養蚕の図」：大判錦絵。一礼斎芳信の落款があり、静岡県立中央図書館に所蔵されています。養蚕の様子を細やかに描いた作品です。
「亜墨利加」：大判錦絵。文久元年の落款があり、一慶斎芳信の号を使用。国立国会図書館に所蔵されています。アメリカ人を描いた横浜絵です。
「和蘭陀」：大判錦絵。文久元年の落款があり、一慶斎芳信の号を使用。国立国会図書館に所蔵されています。オランダ人を描いた横浜絵です。
「清国南京人」：大判錦絵。文久元年の落款があり、一慶斎芳信の号を使用。国立国会図書館に所蔵されています。中国人を描いた横浜絵です。
「英吉利」：大判錦絵。文久元年の落款があり、一慶斎芳信の号を使用。国立国会図書館に所蔵されています。イギリス人を描いた横浜絵です。
「魯西亜」：大判錦絵。文久元年の落款があり、一慶斎芳信の号を使用。国立国会図書館に所蔵されています。ロシア人を描いた横浜絵です。

これらの作品から、芳信が当時の国際的な情勢に関心を抱き、それを浮世絵の題材として取り入れていたことがうかがえます。横浜絵は、当時の人々に異文化への関心を抱かせ、国際感覚を養う一助となったと考えられます。

歌川芳信に関する研究は、まだ十分に進んでいるとは言えませんが、彼の作品は、江戸時代末期の社会や文化、国際交流の様子を知る上で貴重な資料となっています。

参考文献

日本浮世絵協会編　『原色浮世絵大百科事典』（第2巻）　大修館書店、1982年
柏木智雄・内山淳子・片多祐子　『はじまりは国芳　江戸スピリットのゆくえ』　横浜美術館企画・監修、2012年

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