歌川芳員

歌川芳員（生没年不詳）は、幕末から明治初期にかけて活躍した浮世絵師であり、歌川国芳の門人として知られています。本名は次郎吉（または次郎兵衛）、画姓として歌川を名乗り、一寿斎、春斎、一川、一川斎といった号を用いていました。江戸の芝露月町に居を構え、嘉永年間から明治3年（1870年）頃にかけて作品を制作しました。

多岐にわたる作風

芳員の作風は多岐にわたり、合戦絵、武者絵、花鳥画、草双紙の挿絵などを手がけました。特に横浜開港後は、異人の生活や風俗に強い興味を示し、横浜絵を数多く制作しました。しかし、当時の日本にはまだ鉄道が開通していなかったため、文久元年（1861年）に描かれた「亜墨利加国蒸気車往来」や明治3年の「東京繁栄車往来之図」には、船やトレーラーにも似つかない独特な汽車が描かれています。これらの作品は、芳員の想像力と異文化への関心をうかがわせる興味深い作例と言えるでしょう。

主な作品

以下に、歌川芳員の主な作品を挙げます。

「川一丸」 大判錦絵3枚続（ハーバード大学所蔵）
「東海道大井川之図」 大判錦絵3枚続（嘉永6年）
「東都繁栄之図」 大判錦絵3枚続（安政2年）
「亜墨利加洲華盛頓府之景 銅版之写生」 大判錦絵2枚続
「太平記大合戦之図」 大判錦絵3枚続（安政3年）
「新版金沢道中双六」 横大判錦絵（江戸東京博物館所蔵）（安政4年）
「源頼光公足柄山にて坂田金時を抱たまふ図」 大判錦絵3枚続（安政4年）
「蚕やしなひ草」 大判錦絵揃物（早稲田大学演劇博物館所蔵）
「外国官人往来之図」 大判錦絵（東京都立図書館所蔵）（万延元年）
「外国写真鏡之図」 大判錦絵（東京都立図書館所蔵）（万延元年）
「横浜見物図会 異人稚遊」 大判錦絵（ハーバード大学所蔵）（万延元年）
「外国人男女子供遊」 大判錦絵（万延元年）
「異人屋敷料理之図」 大判錦絵（万延元年）
「横浜港崎町郭中之正写」 大判錦絵3枚続（万延元年）
「横浜港崎廓岩亀楼異人遊興之図」 大判錦絵3枚続（メトロポリタン美術館所蔵）（万延元年）
「五ヶ国異人酒宴之図」 大判錦絵3枚続（ハーバード大学所蔵）（文久元年）
「五ヶ国之内 南京人」 大判錦絵（文久元年）
「亜米利加国蒸気船中之写」 大判錦絵3枚続（文久元年）
「亜墨利加国蒸気車往来」 大判錦絵3枚続（ハーバード大学所蔵）（文久元年）
「魯西亜」 大判錦絵（メトロポリタン美術館所蔵）（文久2年）
「文久三亥年天竺国舶来大象之写真於東都両国乾観物」 大判錦絵（文久3年）
「再改横浜明細全図」 44×84cm（慶応4年）
「東京繁栄車往来之図」 大判錦絵3枚続（明治3年）
「横浜異人屋敷之図」 錦絵（フリーア美術館内アーサー・M・サックラー・ギャラリー所蔵）
「亜墨利加蒸気船」 錦絵（フリーア美術館内アーサー・M・サックラー・ギャラリー所蔵）
「写真鏡図」 錦絵（フリーア美術館内アーサー・M・サックラー・ギャラリー所蔵）
「異国人酒宴遊楽之図」 錦絵（フリーア美術館内アーサー・M・サックラー・ギャラリー所蔵）
「東都名所 柳嶌妙見堂」 大判錦絵（国立国会図書館所蔵）
「犬のはなし」 大判
「四十八景ノ内 はまべ 樋口次郎」 大判
* 「Eighty-eight Fish」 絹本著色1幅（ミネアポリス美術館所蔵）

これらの作品群は、芳員の幅広い題材への興味と、それを表現する豊かな才能を示しています。

異文化へのまなざし

芳員の作品の中でも特に注目されるのは、横浜絵です。開港後の横浜を舞台に、異人たちの生活や文化を生き生きと描き出しました。ただし、現物を見たことがないものは想像で補完しており、史実とは異なる描写も見られます。例えば、「亜墨利加蒸気船」は、蒸気船であるにもかかわらず外輪がなく、航行中であるにもかかわらずタラップが降りたままという矛盾が見られます。また、「写真鏡図」は、当時の日本では珍しかった写真機を題材に、フランク・レスリー絵入新聞の挿絵を引用し、日本人を外国人に置き換えて描いています。これらの作品から、芳員が異文化に対して抱いていた好奇心と、それを独自の解釈で表現しようとする姿勢がうかがえます。

歌川芳員は、幕末から明治初期という激動の時代に、異文化との出会いを経て独自の画風を確立した浮世絵師です。彼の作品は、当時の人々の異文化への関心や憧れを反映しており、貴重な歴史資料としての価値も有しています。

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