正字

正字（せいじ）とは

正字とは、漢字を書き記す際に、正規の字体として認められている文字のことです。正字体、あるいは正体とも呼ばれます。この概念は、文字の正確さや規範を重んじる文化において重要な役割を果たしてきました。

概要

正字は、正規かつ正統な字体で書かれた文字を指します。現代の日本では、基本的に『康煕字典』に掲載されている字体が正字の基準とされています。そのため、日本の新字体や中国大陸の簡体字は、原則として正字とはみなされません。

正字に対して、非正規の字体で書かれた文字は、「略字」「俗字」「通用字」などと呼ばれます。例えば、「働」を「仂」、「寮」を「ウかんむりにR」、「職」を「𫟉」と書くような場合が該当します。正字とそれ以外の字体の区別は、学術的な権威や慣習に依拠していますが、歴史的な経緯から、政治権力によって定められた標準（例えば『康煕字典』）に大きく依存しています。

また、「誤字」に対する「正しい字」という意味で「正字」という言葉が使われることもありますが、これは文字の正誤を論じる場合に限定された用法です。

日本における歴史

漢字の字体の規範は、古くから字書によって定められてきました。唐代には『干禄字書』があり、異体字を並べて「正」「俗」「通」を区別していました。これは科挙の試験における文字の基準を示したものであり、日本の字書にも影響を与えました。例えば、『類聚名義抄』をはじめとする多くの漢字・漢語辞書には、「正」「俗」「通」などの字体注記が見られます。

清朝に編纂された『康煕字典』は、漢字文化圏全体に広まり、字体の標準となりました。明治以降の日本では、活字の標準となった字体（例：爲、圖、遙）は、基本的に『康煕字典』の字体に基づいています。ただし、完全に一致するわけではないため、「いわゆる康煕字典体」と呼ばれることもあります。日本では、この「いわゆる康煕字典体」を「正字」または「正字体」と呼ぶことが少なくありません。

しかし、第二次世界大戦後、日本では当用[[漢字]]や常用[[漢字]]が制定され、それまで「俗字」や「略字」とされてきた字体が正式な字体として多数採用されました。これが一般に「新字体」と呼ばれるものです。その結果、「いわゆる康煕字典体」は「旧字（体）」「本字」または「繁体字」と呼ばれるようになり、新字体こそが「正字」であるという立場も生まれています。

このように、正字の概念は時代や社会の変化とともに変遷してきました。現在では、どの字体が「正字」であるかについて、複数の解釈が存在しているのが現状です。

まとめ

正字は、漢字の書写において正規の字体とされるものであり、歴史的な経緯や政治的な影響を受けて変化してきました。現代日本では、康煕字典の字体が基準とされる一方で、新字体も広く使われており、正字の定義は多様な解釈が存在します。

関連項目

略字
俗字
誤字
新字体
正書法
正体字

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