正家廃寺

正家廃寺（しょうげはいじ）

正家廃寺は、かつて美濃国恵那郡に存在した古代の仏教寺院跡であり、現在の岐阜県恵那市長島町正家字寺平に位置します。この寺院は奈良時代に創建され、平安時代中期には廃絶したと考えられています。寺名は不明のため、所在地名から「正家廃寺」と呼ばれています。1959年に岐阜県指定史跡、2001年には国の史跡に指定されました。

概要

恵那盆地の南縁の丘陵上に位置するこの寺院跡は、地元では古くからその存在が知られていました。1977年から1979年にかけて南山大学が、1993年から1999年にかけて恵那市教育委員会が発掘調査を実施し、伽藍配置や寺域の概要が明らかになりました。

文献資料がないため創建の詳細は不明ですが、出土した土器から8世紀前半から中葉に創建されたと推定されています。発掘調査により、寺域は東西約110メートル、南北約70メートルの規模であることが確認されました。

伽藍配置は法隆寺式で、西に塔、東に金堂、その北に講堂が配置されています。各建物の基壇は乱石積みで、礎石は比較的良好な状態で残っています。しかし、瓦が全く出土していないことから、屋根は瓦葺きではなかったと推測されています。

講堂の西側には、経蔵とみられる小型の基壇建物跡が発見されています。金堂は桁行3間、梁間2間の身舎に廂が付く構造で、廂部分は桁行、梁間ともに3間となっています。特筆すべきは、廂の柱が身舎の柱に対して放射状に配置されている点で、このような柱配置は他に類例がなく、飛鳥時代の玉虫厨子にわずかに類似が見られるのみです。

検出された遺構の年代は、8世紀末頃を境に前後の2時期に分けられます。9世紀後半には火災によって衰退し、10世紀前半頃に完全に廃絶したと考えられています。前半期には掘立柱建物の回廊が主要堂塔を囲んでいましたが、後半期には回廊が築地に変わっています。また、後半期には主要伽藍の東側にもう一つの区画が設けられ、東西二つの区画が並置されました。東側の区画からは、掘立柱建物1棟と竪穴建物2棟が確認され、鉄滓やフイゴが出土していることから、この区画には鍛冶場があったと考えられています。

当寺の創建は、美濃国恵奈郡の成立と関連があると考えられています。奈良県飛鳥池遺跡から出土した木簡に「土岐評恵奈」とあることから、677年時点では恵奈郡がまだ成立していなかったことが明らかになっています。そのため、恵奈郡の成立は8世紀初め頃と推定されています。

正家廃寺跡は、遺構の残存状況が非常に良好であり、付属施設を含めた寺域全体がよく保存されています。また、三彩短頸壺、二彩浄瓶、鉄製風鐸などの特色ある遺物も多数出土しており、上代仏教史や美濃国の歴史を研究する上で、学術的に非常に価値の高い遺跡です。

船岡山　長興教寺との関連性

正家廃寺の近くには、平安時代の881年に天台宗の僧、覚源が観音堂を建立したとされる船岡山　長興教寺という寺院があったという伝説があります。長興教寺は応仁の乱の際に兵火で焼失したと伝えられていますが、正家廃寺の前身ではないかという説も存在します。この点については、今後の研究が待たれるところです。

所在地

岐阜県恵那市長島町正家字寺平

参考文献

『恵那市史　通史編　第1巻』　恵那市史編纂委員会, 1983年
『恵那市正家廃寺跡 第1・2次調査概報』恵那市教育委員会, 1978年
『恵那市正家廃寺跡 第3次発掘調査概報』恵那市教育委員会, 1979年
『正家廃寺 発掘調査報告書』恵那市教育委員会, 1994年
『正家廃寺跡 寺平遺跡 2 (恵那市文化財調査報告書 ; 第38集)』恵那市教育委員会, 2000年
『文化財レポート 正家廃寺跡の調査掲載誌 日本歴史』 日本歴史学会 三宅唯美, 1998年

関連項目

長国寺 (恵那市)
手向廃寺

外部リンク

史跡正家廃寺跡保存管理計画 - 恵那市教育委員会
正家廃寺跡 - 恵那市観光協会
* 正家廃寺 - 文化遺産オンライン（文化庁）

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