嘉靖帝
嘉靖帝（かせいてい）は、明朝の第12代皇帝であり、廟号を世宗（せいそう）、諱を厚熜（こうそう）といいます。日本では、その治世の元号から嘉靖帝として広く知られています。彼は道教に深く傾倒し、長年にわたり政務を顧みずに修仙（仙人になるための修行）に没頭したことで有名です。
嘉靖帝は、弘治帝の弟である興王朱祐杬の次男として生まれました。先帝である正徳帝の従弟にあたります。兄の朱厚熙が早世したため、父の後継者となりました。1519年に父が亡くなりましたが、興王位を継ぐ前の1521年に正徳帝が崩御しました。正徳帝には後継ぎとなる男子がいなかったため、血筋が最も近く、正当な皇族として、傍系から皇帝に即位することとなりました。
即位後、大学士である楊廷和らの主導により、正徳帝が寵愛していた銭寧と江彬を処刑し、宮中の官吏を整理するなど、先代の悪しき慣習を一新しました。しかし、嘉靖帝は傍系ながら正統を主張したかったため、「大礼の議」と呼ばれる問題が発生します。嘉靖帝は、弘治帝から従兄である正徳帝を経て帝位を継承したため、形式上は弘治帝の子となり、弘治帝とその皇后を父母とする必要がありました。しかし、嘉靖帝は実父である興献王（朱祐杬の諡号）を皇考（皇帝の父）として扱おうとしたため、系譜上では弘治帝系が消滅することになりました。このため、弘治帝を皇考とすることを求める多くの廷臣と対立し、意見の異なる臣下を200人以上も廷杖にかけ、解任または投獄しました。同様の問題は北宋の「濮議」にも存在しましたが、嘉靖帝のこの弾圧は、宋の英宗の時とは大きく異なり、この事件によって皇帝に諫言をする臣下が激減したとされています。反対派の急先鋒と見なされ、遠く辺境の地に追放され、70歳を超えても生家に帰ることができなかった、嘉靖帝即位の功労者である楊廷和の長男、楊慎もいました。
正徳帝の遺詔により、正徳期の悪政は一掃されました。これは嘉靖帝の功績として評価されることもありますが、実際には正徳帝の遺臣たちによって行われたものです。嘉靖帝自身は朝政をほとんど省みることがなく、道教に熱中し、青詞（道教における祭文）に長けているという理由で高官を登用しました。嘉靖帝に登用され、内閣大学士として国政を壟断した厳嵩は、「青詞宰相」と称されました。先の宰相で、気性の激しい夏言（厳嵩の悪辣な陰謀により処刑された）も、元々は青詞によって取り立てられた人物でした。
しかしながら、実際の政治的な実績とは別に、嘉靖帝自身は決して政治に無関心だったわけではなく、むしろ常にその主導権を握ろうとしていたという評価もあります。大礼の議における官僚たちとの対立によって生じた政治的危機を痛感し、官僚が自分の主張に賛同する体制を模索し続けたとされます。そのため、嘉靖帝は寵臣を要職に就かせ、朝廷の議論を主導させることで、自らの意向に沿った形で官僚の賛同を得て、それを口実として政策を実行しました。そして、その政策が失敗した場合には、賛同した官僚を政策の責任者として処分しました。皇帝は官僚たちに対して、賛同する者には登用や昇進などの褒賞を与え、反対する者には廷杖や左遷、致仕などの処分を与えることができたため、官僚たちが皇帝の意向に逆らうことは困難でした。結果として、嘉靖帝は思い通りの政治を行いながら、その政治責任は全て官僚に転嫁される体制が確立されたとされています。
対外的には、北方ではアルタン・ハーン率いる右翼モンゴルによる侵攻、南方では倭寇による衝突が発生し、国事が多難な時期でした。しかし、嘉靖帝は紫禁城の中に引きこもり、自らの生活を謳歌しました。そのため、多くの女性の怨恨を買い、壬寅宮変（1542年）へと発展しました。その後、嘉靖帝は長く紫禁城に住むことを避け、次々と夭折した皇子たちのうち、生き残った2人にも会おうとしませんでした。嘉靖45年（1566年）、宰相らの後ろ盾を受けて諫言をした海瑞が詔獄に繋がれている最中に、嘉靖帝は長年服用していた丹薬による中毒で崩御しました。
嘉靖帝には、多くの后妃と子供たちがいました。正室には孝潔皇后陳氏、継室には継后張氏、継々室には孝烈皇后方氏がいました。側室には、康妃杜氏（孝恪太后）、皇貴妃閻氏、皇貴妃王氏、皇貴妃沈氏、貴妃文氏、栄妃楊氏、靖妃盧氏、永妃徐氏、懿妃趙氏、粛妃江氏、雍妃陳氏、栄妃趙氏、端妃曹氏、徽妃王氏など多数がいました。
皇子には、穆宗朱載坖、哀沖太子朱載基、荘敬太子朱載壡、景恭王朱載圳、戚懐王朱載𰋁、潁殤王朱載𪉖、薊哀王朱載㙺、均思王朱載𰉬がいました。
皇女には、嘉善公主朱素嫃、帰善公主朱瑞嬫、常安公主朱寿媖、寧安公主朱禄媜、思柔公主朱福媛がいました。
この他、多数の賢妃、麗妃、徳妃、貞妃、宸妃、寿妃、淑妃、安妃、定妃、晏妃、平妃、康妃、宜妃、静妃、順妃、荘妃、睦妃、和妃、懐妃、常妃、恭妃、敬嬪、荘嬪、恵嬪、淑嬪、常嬪、裕嬪、懐嬪、御嬪、宛嬪、康嬪、昭嬪、寧嬪、静嬪、安嬪、麗嬪、和嬪などがいました。
詳細は、各種文献や史料を参照してください。
嘉靖帝は、多くの映画やテレビドラマに登場しています。映画では、『忠烈図』（1975年、演：趙雷）があります。テレビドラマでは、『大明王朝 〜嘉靖帝と海瑞〜』（2006年、演：陳宝国）、『花様衛士〜ロイヤル・ミッション〜』（2019年、演：丁勇岱）などがあります。
嘉靖帝に関連する事件としては、壬寅宮変や嘉靖大地震などがあります。
生涯
嘉靖帝は、弘治帝の弟である興王朱祐杬の次男として生まれました。先帝である正徳帝の従弟にあたります。兄の朱厚熙が早世したため、父の後継者となりました。1519年に父が亡くなりましたが、興王位を継ぐ前の1521年に正徳帝が崩御しました。正徳帝には後継ぎとなる男子がいなかったため、血筋が最も近く、正当な皇族として、傍系から皇帝に即位することとなりました。
即位後、大学士である楊廷和らの主導により、正徳帝が寵愛していた銭寧と江彬を処刑し、宮中の官吏を整理するなど、先代の悪しき慣習を一新しました。しかし、嘉靖帝は傍系ながら正統を主張したかったため、「大礼の議」と呼ばれる問題が発生します。嘉靖帝は、弘治帝から従兄である正徳帝を経て帝位を継承したため、形式上は弘治帝の子となり、弘治帝とその皇后を父母とする必要がありました。しかし、嘉靖帝は実父である興献王（朱祐杬の諡号）を皇考（皇帝の父）として扱おうとしたため、系譜上では弘治帝系が消滅することになりました。このため、弘治帝を皇考とすることを求める多くの廷臣と対立し、意見の異なる臣下を200人以上も廷杖にかけ、解任または投獄しました。同様の問題は北宋の「濮議」にも存在しましたが、嘉靖帝のこの弾圧は、宋の英宗の時とは大きく異なり、この事件によって皇帝に諫言をする臣下が激減したとされています。反対派の急先鋒と見なされ、遠く辺境の地に追放され、70歳を超えても生家に帰ることができなかった、嘉靖帝即位の功労者である楊廷和の長男、楊慎もいました。
正徳帝の遺詔により、正徳期の悪政は一掃されました。これは嘉靖帝の功績として評価されることもありますが、実際には正徳帝の遺臣たちによって行われたものです。嘉靖帝自身は朝政をほとんど省みることがなく、道教に熱中し、青詞（道教における祭文）に長けているという理由で高官を登用しました。嘉靖帝に登用され、内閣大学士として国政を壟断した厳嵩は、「青詞宰相」と称されました。先の宰相で、気性の激しい夏言（厳嵩の悪辣な陰謀により処刑された）も、元々は青詞によって取り立てられた人物でした。
しかしながら、実際の政治的な実績とは別に、嘉靖帝自身は決して政治に無関心だったわけではなく、むしろ常にその主導権を握ろうとしていたという評価もあります。大礼の議における官僚たちとの対立によって生じた政治的危機を痛感し、官僚が自分の主張に賛同する体制を模索し続けたとされます。そのため、嘉靖帝は寵臣を要職に就かせ、朝廷の議論を主導させることで、自らの意向に沿った形で官僚の賛同を得て、それを口実として政策を実行しました。そして、その政策が失敗した場合には、賛同した官僚を政策の責任者として処分しました。皇帝は官僚たちに対して、賛同する者には登用や昇進などの褒賞を与え、反対する者には廷杖や左遷、致仕などの処分を与えることができたため、官僚たちが皇帝の意向に逆らうことは困難でした。結果として、嘉靖帝は思い通りの政治を行いながら、その政治責任は全て官僚に転嫁される体制が確立されたとされています。
対外的には、北方ではアルタン・ハーン率いる右翼モンゴルによる侵攻、南方では倭寇による衝突が発生し、国事が多難な時期でした。しかし、嘉靖帝は紫禁城の中に引きこもり、自らの生活を謳歌しました。そのため、多くの女性の怨恨を買い、壬寅宮変（1542年）へと発展しました。その後、嘉靖帝は長く紫禁城に住むことを避け、次々と夭折した皇子たちのうち、生き残った2人にも会おうとしませんでした。嘉靖45年（1566年）、宰相らの後ろ盾を受けて諫言をした海瑞が詔獄に繋がれている最中に、嘉靖帝は長年服用していた丹薬による中毒で崩御しました。
宗室
嘉靖帝には、多くの后妃と子供たちがいました。正室には孝潔皇后陳氏、継室には継后張氏、継々室には孝烈皇后方氏がいました。側室には、康妃杜氏（孝恪太后）、皇貴妃閻氏、皇貴妃王氏、皇貴妃沈氏、貴妃文氏、栄妃楊氏、靖妃盧氏、永妃徐氏、懿妃趙氏、粛妃江氏、雍妃陳氏、栄妃趙氏、端妃曹氏、徽妃王氏など多数がいました。
皇子には、穆宗朱載坖、哀沖太子朱載基、荘敬太子朱載壡、景恭王朱載圳、戚懐王朱載𰋁、潁殤王朱載𪉖、薊哀王朱載㙺、均思王朱載𰉬がいました。
皇女には、嘉善公主朱素嫃、帰善公主朱瑞嬫、常安公主朱寿媖、寧安公主朱禄媜、思柔公主朱福媛がいました。
この他、多数の賢妃、麗妃、徳妃、貞妃、宸妃、寿妃、淑妃、安妃、定妃、晏妃、平妃、康妃、宜妃、静妃、順妃、荘妃、睦妃、和妃、懐妃、常妃、恭妃、敬嬪、荘嬪、恵嬪、淑嬪、常嬪、裕嬪、懐嬪、御嬪、宛嬪、康嬪、昭嬪、寧嬪、静嬪、安嬪、麗嬪、和嬪などがいました。
脚注
詳細は、各種文献や史料を参照してください。
登場作品
嘉靖帝は、多くの映画やテレビドラマに登場しています。映画では、『忠烈図』（1975年、演：趙雷）があります。テレビドラマでは、『大明王朝 〜嘉靖帝と海瑞〜』（2006年、演：陳宝国）、『花様衛士〜ロイヤル・ミッション〜』（2019年、演：丁勇岱）などがあります。
関連項目
嘉靖帝に関連する事件としては、壬寅宮変や嘉靖大地震などがあります。
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