武久源造

武久源造（たけひさげんぞう、1957年 7月27日 - ）は、日本の鍵盤楽器奏者であり、チェンバロ、フォルテピアノ、オルガン、クラヴィコードといった古楽器を自在に操る演奏家です。即興演奏家、バッハ研究家、作曲家、指揮者としても多岐にわたり活動しています。愛媛県松山市出身。

国立音楽大学客員講師を務める傍ら、かつてはフェリス女学院大学音楽学部器楽科及び同大学院で教鞭を執っていました（1998年～2010年）。

人物

1歳で全盲となった武久氏は、2歳で音楽教師であった父親によってその音楽的才能を見出されました。1966年、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の松山公演において、ヘルベルト・フォン・カラヤンが演奏したチェンバロの音色に魅了され、その研究を始めたといいます。小学生の頃には、チェンバロを習うために寝台列車で東京まで通い続け、チェンバロ、オルガン、ピアノ、クラビコードなど、様々な鍵盤楽器を習得しました。

2000年からは古楽器グループ「コンヴェルスム・ムジクム」を結成し、主宰として指揮や編曲活動にも力を注ぎ、常に新しい音楽を追求し続けています。

ヨハン・ゼバスティアン・バッハやヴィヴァルディ、シュッツなどの作品をレパートリーとするほか、チェンバロ、ピアノ、オルガンを中心に、中世から現代までの幅広いジャンルの楽曲を演奏します。特にブクステフーデやバッハなどのドイツ鍵盤作品においては、その独特で的確な解釈が国内外から高く評価されています。また、作曲家、編曲家としても才能を発揮し、多くの作品を発表しています。音楽的な解釈に加えて、楽器製作の過程にも深く精通しており、楽器の構造的特色を最大限に引き出す演奏は、楽器製作家からも高く評価されています。オルガンやチェンバロのソロ活動も積極的に行っており、現代作品の演奏や即興演奏にも取り組んでいます。

2007年からは、深町研太によって復元されたジルバーマンピアノの改善改良に尽力し、世界中から天然素材を調達して試作を重ね、原典に忠実な楽器製作を自ら手がけています。バッハが追い求めた最高の音色を追求し、演奏活動を行っています。

略歴

東京藝術大学音楽学部楽理科を卒業後、同大学大学院音楽研究科音楽学専攻に進学し、16〜17世紀の音楽修辞学を服部幸三に師事。オルガンを月岡正暁、秋元道雄、チェンバロを小林道夫、鍋島元子に師事しました。1983年、ブクステフーデの研究により同大学院を修了。研究テーマは主に「バッハ以前の音楽におけるDispositioについて」でした。

1984年から国内外で演奏活動を開始し、1986年より作曲、編曲作品を発表。1998年から2010年3月までフェリス女学院大学音楽学部及び同大学院講師を務め、現在は国立音楽大学客員講師として後進の育成に励んでいます。

2002年からは毎年、韓国からの招聘による「コンヴェルスム・ムジクム韓国公演」を実施し、日韓両国の音楽文化交流に貢献しました。

2005年より、鍵盤楽器の新領域とも言えるシンフォニーのピアノ連弾版に取り組み、多方面から注目を集めました。

2006年にはNHK第一ラジオ「ときめきカルチャー」のコーナーに年間を通して出演し、その後もNHKのカルチャー・ラジオシリーズでレクチャーを担当しました。

2011年7月、ドイツ・シュタインスフェルトでのバジリカ・オルガンを使ったコンサートで、山口眞理子との共演により自作の「アクア・ベリターティス」を発表。2013年には、ラモーの抒情喜劇『レ・パラダン』の日本人による初演を指揮し、高い評価を得ました。また、毎年ヨーロッパ各国（ドイツ、リトアニア、アイスランド、スウェーデンなど）で、即興演奏を含む多彩なプログラムによるコンサートを開催し、注目を集めています。

2015年には、ジルバーマン・ピアノによるバッハ作曲「パルティータ」の世界初の全曲録音をリリース。2016年3月には、2度目のゴールドベルク変奏曲の録音をリリースし、日本で初めて16ft弦付チェンバロを使用し、ゴールドベルク変奏曲の新たな可能性を切り開きました。さらに同年、市瀬礼子との共演により、バッハのガンバ・ソナタ全曲をジルバーマン・ピアノとチェンバロを使い分けて録音し発表。2017年4月には、ジルバーマン・ピアノとペダル付チェンバロを使い分けて、バッハの《平均律クラヴィーア曲集》全曲録音を始動。4部作を2019年8月に完成させました。その際、従来誤訳とされてきた《平均律》を《適正律》と改め、「適正律クラヴィーア曲集」として発表しました。

古楽コンクールや国際チェンバロ製作家コンテストなど、数々のコンクールで審査員を務める傍ら、コジマ録音を中心に演奏発表を行い、作曲も手掛けています。

1991年よりプロデュースも含め40作品以上のCDをALM RECORDSよりリリース。「鍵盤音楽の領域」（Vol.1～9）や、チェンバロによる「ゴールドベルク変奏曲」、「J.S.バッハオルガン作品集Vol.1」、オルガン作品集「最愛のイエスよ」など、多数の作品が「レコード芸術」誌の特選盤に選ばれています。

コロナ禍においては、バッハの『イギリス組曲』に取り組み、全曲録音を果たし、2022年にCDをリリース。同作品も特選盤に選ばれました。

2023年10月、第20回本間一夫文化賞を受賞。

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