武智丸

武智丸の概要と歴史

はじめに

武智丸（たけちまる）は、大日本帝国海軍の貨物船で、第二次世界大戦中に建造されたコンクリート船の一例です。この船は、戦時標準船E型に基づいていますが、コンクリートで作られているため、構造上、鋼材船とは異なる特徴を持っています。武智丸を含む同型船は4隻建造され、そのうちの2隻は現存し、防波堤として利用されています。

コンクリート船の誕生と背景

コンクリート船は、19世紀中頃から発展してきました。第一次世界大戦期にその技術が争われ、1920年代には大西洋を横断する大型船が登場しました。コンクリート船の利点は、水密性や耐水性に優れていることです。ただし、費用面では型枠用の木材などが多く必要で、鋼材船に比べて二倍のコストがかかるため、通常は代用品として扱われました。

第二次世界大戦の末期に今村安次郎技術中佐の考案で建造された武智丸は、鋼材不足を背景にした応急の輸送船として設計されました。この船は日本近海での石炭輸送を目的にしていました。

建設の経緯

日本の戦時体制下では、鋼材や貨物船の不足が深刻でした。そのため、舞鶴海軍工廠での設計が進みました。ここで、林邦雄技術中佐は貨物船をコンクリートで作ることを提案し、国家の承認を得ました。彼は800トン、750馬力、速力9.5ノットという仕様の船を設計しました。

この船の建造場所は兵庫県曽根町の塩田跡で、「武智造船所」と命名されました。最初は無動力の艀を建造した後、武智丸の建設に取り掛かりました。また、1945年には三井造船との提携を経て、建造所の名前を改称しましたが、終戦と同時に閉鎖されました。

構造と性能

武智丸は、一般的な船舶と同じ形状でありつつも、使用される材料はコンクリート製でした。船体の重量は通常の鋼材船よりもやや重く、最大載貨重量は940トンでした。船体は頑丈に設計され、コンクリートの厚さも喫水線以上で12センチメートル、船底部は25センチメートルとされていました。

船は750馬力のディーゼルエンジンを搭載し、自力で航行が可能でした。コンクリートの配合も特別仕様であり、使用されたセメントや砂、砂利は特定の条件下で調達されました。これは、コンクリート船の建造が鋼材船とは異なる資源を活用する点での利点をもたらしました。

船歴と転用

武智丸は、主に瀬戸内海で石炭や製鋼原料などを輸送し、戦後も兵庫などで使用されました。特に第二武智丸は数回の触雷を経験しながらも航行を続け、戦後に一時期再利用されました。

その後、2隻の武智丸は防波堤として転用され、現在も現存しています。これは、環境が厳しい港で防波堤が必要だったためで、身体を大きくすることが難しい地盤に伴う解決策の一環でした。1949年には、船の払い下げを受けて沈設工事が行われ、今でも重要な航行安全を支えている構造物として残っています。

結論

武智丸は、敗戦後の日本においてその形を変えてもなお重要な役割を果たし続けてきました。コンクリート船としての特異な背景を持ちながらも、実際には多くの人々に利用され、過去の戦争の遺産として記憶されています。こうした船の存在は、当時の技術や資源の制約の中での創意工夫が生んだ結果であり、歴史的な価値を持つものと言えるでしょう。

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