武田信縄

武田信縄：戦国時代の甲斐国守護大名

武田信縄（たけだ のぶつな）は、戦国時代の甲斐国（現在の山梨県）を治めた守護大名であり、武田氏の14代当主です。武田信玄の祖父、武田勝頼の曾祖父にあたります。

生涯

信縄は、16代当主・武田信昌の嫡男として生まれました。出生地や居館ははっきりとは分かっていませんが、父・信昌の時代から武田氏の拠点であった石和の川田館や、信昌隠居後の居館である落合館などが候補として挙げられています。

当時の甲斐国は、室町時代に上杉禅秀の乱の影響で武田氏の力が衰退し、各地の国人勢力や守護代の跡部氏が台頭していました。信昌の時代には跡部氏を排除したものの、郡内領主の小山田氏や河内領主の穴山氏といった新たな勢力が力を増していました。

1491年、父・信昌が隠居し、信縄が家督を継承しました。しかし、当時の甲斐国は、守護武田氏と穴山氏、東郡の栗原氏、西郡の大井氏などの有力国人勢力による争いが絶えず、さらに駿河国の今川氏などの対外勢力との抗争も発生しており、混乱した状態でした。

信縄が家督を継いだ後、父・信昌は信縄の異母弟である油川信恵（彦八郎）を後継者に望むようになり、武田家内部での対立も深刻化しました。この内紛は、甲斐国内の混乱に拍車をかけ、「王代記」では甲斐の乱国状態を「兄弟争論」と記しています。

1492年には、東郡の栗原大輔が河内の穴山信懸のもとへ逃れると、信縄はこれを追撃しました。同年には、市川で信縄と穴山氏の合戦が行われ、さらに駿河の今川氏が甲斐へ侵攻するなど、各地で争いが起きました。

信恵は、勝山城を拠点に父・信昌や小山田氏らと結び、信縄に対抗しました。1495年には、相模国から伊豆への進出を企てる伊勢盛時（北条早雲）が甲斐都留郡へ侵攻し、その後も国境での争いが断続的に発生しました。この時期、信縄は国内の争乱に対応するため、都留郡へ出兵する余裕がなく、北条氏への対抗は小山田氏が中心となっていました。

1496年には、境川郷の熊野神社に制札を掲げ、広厳院へ過書を下すなど、領国支配に努めました。1498年に明応の大地震が発生すると、信縄と信昌・信恵の間で一時的に和睦が成立しましたが、1505年に信昌が死去すると、再び信恵方との抗争が激化しました。

1506年、信縄は病気平癒のため富士浅間大菩薩に願文を捧げましたが、翌1507年に病死しました。享年37歳でした。

死後

信縄の死後、嫡男の武田信虎が家督を継ぎ、1508年に坊ヶ峰合戦で信恵方を破り、甲斐国内の統一をほぼ達成しました。

妻子

信縄の正室は実名不詳の崇昌院殿（広厳院殿）で、山梨郡の国人・栗原氏の娘とする説があります。信縄の孫にあたる武田晴信（信玄）は、1556年に崇昌院殿の菩提を弔うため、一宮郷の地を広厳院に寄進し、法名を「広厳院殿」と改めました。

また、側室に山梨郡岩下村の地侍・岩下越前守の娘がおり、法名は「桂岩妙英大姉」と伝えられています。岩下氏は武田信虎の生母であるとする説もあります。

武田信縄の人物像

武田信縄は、激動の時代に甲斐国を統治した人物として、その生涯は国内の混乱や対外勢力との抗争に翻弄されました。しかし、その中でも領国経営に尽力し、後世の武田氏発展の礎を築いた人物の一人と言えるでしょう。

参考文献

黒田基樹「武田宗家の内肛」『山梨県史』通史編2中世第七章第一節一
秋山正典「明応～永正期の甲斐武田氏における内訌」『武田氏研究』第34号、2006年。
柴辻俊六 著「武田信縄室」「武田信縄側室」、柴辻俊六; 平山優; 黒田基樹 ほか 編『武田氏家臣団人名辞典』東京堂出版、2015年。
平山優『武田信虎 覆される「悪逆無道」説』戎光祥出版〈中世武士選書・42〉、2019年。

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