武者満歌

武者 満歌（むしゃ まんか）は、1848年（嘉永元年）に江戸で生まれ、1941年（昭和16年）に93歳でその生涯を閉じた、近代日本の土木技術者であり実業家です。特に、日本の鉄道建設が始まったばかりの草創期において、中心的な役割を果たした人物として知られています。

江戸本所石原町の旗本の子として生を受けた武者は、幼名を友太郎と称しました。元治元年（1864年）には徳川幕府の軍艦奉行が管轄する海軍に入り、海軍操練所で数学や測量技術を修得するなど、若くして技術分野に関心を寄せました。

明治維新後、新政府が日本の近代化の要と位置づけた鉄道事業に携わることとなります。明治3年（1870年）、民部省および大蔵省に「鉄道掛」が設置されると同時に見習として参加。翌月には専門試験に合格し、23歳という若さで鉄道技術者となりました。

この時期、日本で最初の鉄道となる新橋-横浜間の測量が開始されます。武者は、そのうち新橋から六郷川までの区間の測量を担当しました。彼は、当時日本政府に招かれていた英国人技師ジョン・ダイアックの測量技術者として、初期の鉄道建設における重要な一歩を担いました。特に、現在の汐留駅付近に設置されている、日本の鉄道網の起点を示す「0哩零鎖」（ゼロマイル）標識の第一杭を据え付けたとされる功績は、後世に語り継がれています。

新橋-横浜間の測量に続き、武者は大阪-神戸間の測量にも従事。その後も鉄道組織内で昇進を重ね、京都と滋賀を結ぶ大津線（京都-大津間）の建設工事（京都-深草間）や、琵琶湖東岸を走る湖東線（大津-長浜間）の敷設工事に携わりました。これらの路線の開通を通じて、彼は自身が初期に関わった新橋から神戸に至る主要幹線鉄道の全線開通という歴史的瞬間を目の当たりにしました。

官職を離れた後も、武者は民間においてその技術と経験を活かしました。明治29年（1896年）には七尾鉄道の建設課長を務め、後には大手建設会社である鹿島組の顧問となるなど、実業家としても活躍しました。

大正10年（1921年）に行われた鉄道開業50周年の記念式典では、日本の鉄道発展に貢献した永年の功績が認められ、功労者として表彰を受けました。晩年は、鉄道草創期を体験した数少ない生き証人として、その貴重な回顧談は日本の鉄道建設史を知る上で極めて重要な資料となっています。

特に、新橋-品川間の測量に際して、軍の敷地立ち入りが許可されず、大隈重信の決断によって干潮時を狙って海中を測量せざるを得なかったという苦労話や、その際に長靴を履く外国人技師と、草履やわらじで海に入るしかなかった日本人技術者との装備の違いを羨ましく思ったというエピソードは、当時の苛酷な作業環境や日進月歩で変化する日本の状況をリアルに伝えています。昭和の時代に入ってからは、日本の鉄道工事史における「生ける歴史の証人」として、その存在は広く知られていました。

1941年（昭和16年）、京都市内の自宅で満93歳という長寿を全うし死去しました。長男の武者錬三は後に朝鮮電気協会副会長や京城電気（現在の韓国電力公社）社長を務めています。

武者満歌の生涯は、まさに日本の近代化、特に鉄道という新たなインフラが国家の基盤として築かれていく過程と深く結びついており、その初期段階における彼の貢献は計り知れません。彼の残した記録や回想は、激動の時代に技術者たちが直面した困難と、それを乗り越えて日本の大動脈を造り上げた情熱を今に伝えています。

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