武道会 (ロンドン)

武道会（ぶどうかい / The Budokwai）

ロンドンに位置する武道会は、1918年に創設された、ヨーロッパにおいて最も古い歴史を持つ日本の武道場です。ここでは柔道を始め、様々な日本の武道が指導されています。

名称とその意味

正式名称は「the Budokwai (The Way of Knighthood Society)」ですが、一般的には「the Budokwai」あるいは日本語で「武道会」と呼ばれています。この名称は創設者である小泉軍治によって名付けられ、英語に訳したものが「The Way of Knighthood Society」です。道場のシンボルマークは、青い桜の花弁の上に、白い線で漢字の「武」を象ったデザインです。小泉は「武」の字について、文字が「止」と「戈（戦い）」の組み合わせで成り立っていることを踏まえ、武道の鍛錬の目的は戦いをやめることにある、との考えからこの文字を選んだと説明しています。

設立とその歩み

武道会は、小泉軍治がイギリスの一般市民に対して日本の柔道や剣道といった武道を教える場として始まりました。道場はロンドン中心部のウェストミンスター地区、ヴィクトリアに開設され、1918年1月26日に12名の会員で活動を開始しました。これが、ヨーロッパ大陸における日本武道の道場の先駆けとなります。

当初の会員は36名の日本人でしたが、同年3月にはイギリス人の入会が始まり、やがて初のイギリス人女性が60番目の会員として加わりました。初代会長には小泉軍治が、柔道の初代師範には谷幸雄が就任しました。

1920年7月には、講道館柔道の創始者である嘉納治五郎師範が、アントワープオリンピックへ日本選手団長として向かう途中に武道会を訪れ、小泉と谷に講道館の二段位を授与しました。嘉納に同行していた会田彦一は、その後2年間にわたりイギリスに滞在し、武道会で指導を行いました。この頃、武道会で修行を積んだ日本人会員である田辺が初段に昇段し、武道会で初めて育成された有段者となりました。武道会は、1918年から1968年まで毎年5月11日に定例の演武会を開催し、その後も不定期に演武会を実施しています。

武道会は、イギリス国内のみならず、ヨーロッパ全域における柔道組織の発展に重要な役割を果たしました。小泉は、英国およびヨーロッパにおける柔道組織設立構想を進めるため、武道会内に委員会を設置して議論を重ねました。その結果、1948年には武道会のジョン・バーンズ会長が、ヨーロッパ各地の柔道・柔術道場に対し、武道会主催の会議への参加を呼びかけました。1948年7月24日、ロンドンのインペリアル・カレッジ・ユニオンで行われた会議で、イギリス柔道協会（British Judo Association, BJA）が設立されました。さらに、同年7月26日と28日には国際会議が開催され、オーストリア、イギリス、オランダ、イタリアの4カ国とオブザーバー参加のフランスが集まりました。この会議では武道会のトレヴァー・レジェットが議長を務め、武道会が起草した会則案が提出され、ヨーロッパ柔道連盟（European Judo Union, EJU）が結成されました。

その後も、武道会には高名な指導者が招かれました。1953年には、当時講道館六段だった川村禎三がイギリス留学中に指導に当たりました。1954年9月、武道会はロンドンのサウスケンジントンにあるギルストンロード4番地へ移転しました。新しい道場の開場式には、駐英日本大使も出席し、川村による投げ技が披露されました。1960年代には、日本空手協会との連携により、1963年の全日本チャンピオンである榎枝慶之輔をはじめとする数多くの日本人指導者が武道会で指導を行いました。同時期に合気道の指導も始まりました。1964年に柔道がオリンピックの正式種目となったことで、柔道が国際的に普及するにつれて、武道会における柔道の指導もスポーツとしての柔道や競技柔道に重点が置かれるようになりました。イギリス初の柔道オリンピックチームの一員だったブライアン・ジャックス、シド・ホーア、トニー・スウィーニーといった選手たちは、武道会の会員でした。

現在の活動と運営

2017年現在、武道会では柔道、空手、合気道、ブラジリアン柔術、ピラティス・メソッド、古武術である本體楊心流など、多岐にわたるクラスを提供しています。特に柔道は毎日指導が行われており、年齢や経験レベルに応じた様々なクラスが用意されています。武道会は非営利団体として運営されており、会員は正会員、準会員、名誉会員から構成されます。クラブの財政的な責任と議決権を持つのは正会員のみであり、その定員は45名と定められています。現在の執行委員会の会長はピーター・ブルーウェット氏です。

著名な会員

武道会には、歴史上や現代における様々な分野で著名な人物が名を連ねています。1936年3月には、サラ・メイヤーが日本人以外の女性として初めて柔道の有段者となりました。彼女は1920年代に武道会で柔道を始め、1934年には武道会の紹介を受けて日本へ渡り、柔道修行に励みました。ニール・アダムス、ブライアン・ジャックス、アンジェロ・パリジ、レイモンド・スティーヴンスなど、オリンピックの柔道競技に出場した多くの代表選手が武道会に所属していました。また、カイリー・ミノーグ、サイモン・ル・ボン、ミック・ジャガー、ヤスミン・ル・ボン、ガイ・リッチーといった著名人も会員として名を連ねています。さらに、ブラジリアン柔術のチャンピオンであるホジャー・グレイシーや、陸上競技選手のセバスチャン・コーなども、武道会で柔道のトレーニング経験を持っています。元イギリス外務大臣のウィリアム・ヘイグ氏も、セバスチャン・コー氏と共に定期的に武道会で柔道の稽古を行っていたとされています。

武道会は、その創設以来一世紀以上にわたり、ヨーロッパにおける日本武道の拠点として、技術の指導、文化交流、そして関連組織の発展に多大な貢献を続けています。

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