歴史文化保存活用区域

歴史文化保存活用区域：文化財と地域活性化の共存を目指して

歴史文化保存活用区域とは、2007年に文化審議会文化財分科会企画調査会が提唱した制度試案です。特定地域に集中する様々な文化資源と、それらの価値を形成する周辺環境を一体的に捉え、「文化的な空間」を創出することを目的としています。

この制度は、既存の文化財保護法における有形・無形文化財、史跡、名勝、天然記念物、文化的景観、伝統的建造物群保存地区などを対象とします。それらの文化財群と一体となって価値を形成する地形、遠景、植生なども含めた、より広範な地域を計画区域として設定します。

重要な点は、歴史文化保存活用区域が、文化財保護のための規制区域ではないということです。むしろ、観光振興を通じた地域活性化や雇用促進といった、積極的な活用に主眼が置かれています。文化財の保護と活用の両立、いわば「保存と活用の調和」を目指す革新的な試みと言えるでしょう。

周辺環境の重要性

文化財群の価値を決定づける上で、周辺環境の重要性は非常に高いです。文化財保護法では、「歴史上又は芸術上価値の高いもの（これらのものと一体をなしてその価値を形成している土地その他の物件を含む。）」と規定されており、古都保存法や歴史まちづくり法においても「歴史的風土」「歴史的風致」として同様の概念が定義されています。

諸外国では「cultural space」「cultural environment」「environmental goods」「built environment」といった概念と近しいものと捉えられており、日本国内でも「空間文化財」「環境遺産」「歴史文化形成エリア」など、様々な名称が用いられています。「文化的空間」という呼称は、特に無形文化遺産において用いられ、無形の習俗を含む範囲を示しています。

モデル事業と発展

文化庁は2008年から3年間、「歴史文化保存活用区域のための文化財総合的把握モデル事業」を実施し、全国20か所を選定しました。このモデル事業を経て、2012年からは「文化遺産を活かした地域活性化事業」へと展開されました。

2019年の文化財保護法改正に基づき、「文化財保存活用地域」の認定制度が創設され、複数の地域が認定されました。この制度は、歴史文化保存活用区域の理念をさらに発展させたものと言えるでしょう。日本遺産制度も、歴史文化保存活用区域の理念を汲み取った制度として注目されています。

課題と展望

歴史文化保存活用区域の制度設計にあたっては、いくつかの課題も存在します。文化財保護法の第一条には「文化財を保存し、且つ、その活用を図り」とありますが、文化財を背景とした土地利用の実績は少なく、未知数の部分も多く残されています。

また、指定区域の規模の上限が定められていないため、広範囲に及んだ場合の行政による監視体制が課題となります。さらに、関連文化財群の中には、文化財保護法の適用外の稼働遺産が含まれる可能性があり、指定区域の周辺環境には現代社会のインフラや生活環境的要素が含まれているため、歴史・文化との整合性をどのように図っていくかが重要な課題となっています。

歴史文化保存活用区域は、文化財の保存と活用の調和を目指した、挑戦的な取り組みです。今後の発展と課題解決に向けた取り組みが、日本の文化遺産の継承と地域社会の活性化に大きく貢献していくことが期待されます。

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