殿司

平安時代の宮廷において、後宮の円滑な運営を支えた部署の一つに「殿司（とのもづかさ/とのもりづかさ）」がありました。後宮十二司の一つとして、後宮の衛生環境維持、そして宮中行事などに不可欠な各種物品の管理を主な業務としていました。

その業務内容は多岐に渡り、後宮内の清掃、天皇や后などの移動手段である輿（こし）などの管理・整備、そして宮殿内の照明に関わる灯油、火燭、炭薪といった燃料の調達と管理などが含まれていました。これらの業務は、宮廷生活の維持に不可欠なものであり、殿司の役割は非常に重要だったと言えるでしょう。

殿司を構成していた職員は、階層的な組織体系で構成されていました。最高位の職員は尚殿（とのものかみ/とのもりのかみ）で、従六位相当の官位にありました。尚殿の下には典殿（とのものすけ/とのもりのすけ）が2名おり、従八位相当の官位にありました。さらに、これらの職員を補佐する女孺（にょじゅう）が6名配置されていました。この構成員からわかるように、殿司は、管理職である尚殿と典殿、そして現場作業を担う女孺という、役割分担の明確な組織だったと考えられます。

平安時代中期以降、宮廷制度の変革に伴い、後宮の組織構造自体が再編されることになります。その結果、後宮十二司は解体され、殿司もその例外ではありませんでした。殿司は主殿寮に吸収され、その役割は主殿寮からの派遣という形で内侍司に引き継がれました。この際に、殿司の職員は「主殿司（とのもづかさ/とのもりづかさ）」または「主殿女官」と呼ばれるようになりました。

主殿司の定員は時代によって変化が見られます。12世紀前半には9名であったとされ、その後、12世紀後半には12名に増加したと伝えられています。この定員の増加は、後宮の規模拡大や業務量の増加に対応するために行われたものと考えられます。

このように、殿司は平安時代の後宮において重要な役割を果たした部署でした。その組織構造や業務内容、そして平安時代中期以降の変遷を知ることで、平安時代の宮廷社会をより深く理解することができるでしょう。後宮の維持管理という、一見地味な業務に携わった殿司の存在は、華やかな宮廷生活の裏側を支えた重要なピースだったと言えるのではないでしょうか。彼らの献身的な努力なくしては、平安時代の華麗な宮廷文化は成り立たなかったはずです。今後の研究によって、さらに詳細な情報が明らかになることを期待したいところです。

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