比内鶏

比内鶏と比内地鶏：秋田が誇る美味鶏

比内鶏（ひないどり）は、秋田県北部、米代川流域の比内地方で古くから飼育されている日本固有の鶏です。その希少性から、国の天然記念物に指定されています。本記事では、比内鶏の特徴や歴史、そして比内鶏を品種改良して生まれた比内地鶏について解説します。

比内鶏とは

比内鶏のルーツは、東南アジアや中国から渡来した鶏が自然交配を繰り返して生まれたと考えられています。江戸時代には、秋田県北部の地鶏に軍鶏を交配したものが比内鶏の原型になったという説もあります。遺伝子解析の結果からも、比内鶏は軍鶏に近い種であることがわかっています。

原種である比内鶏は、首が長く、鶏冠が小さいのが特徴です。明治以降、外国産の鶏種が輸入されたことで飼育数は激減し、昭和初期には絶滅寸前の状態に陥りました。しかし、野鶏に近い性質を持ち、品種改良もされていない貴重な存在であることから、1942年に国の天然記念物に指定され、保護されています。

比内鶏の肉質はヤマドリに似て風味が良いのですが、成長が遅く、繁殖率が低く、病気にかかりやすいなど、飼育が難しい点が課題でした。そのため、商品としての販売は困難でしたが、1972年からは「秋田県声良鶏・比内鶏・金八鶏保存会」が中心となり、比内鶏の維持・保存活動が行われています。

比内地鶏：比内鶏の血を引くブランド鶏

比内地鶏は、「さつま地鶏」「名古屋コーチン」と並ぶ日本三大地鶏の一つです。原種比内鶏の生産性の低さを解消するため、秋田県畜産試験場が1973年から品種改良に取り組み、比内鶏の優れた食味を維持しつつ、生産性を向上させることを目指しました。

その結果、比内鶏の選抜優良種である「秋田比内鶏」のオスと、ロードアイランドレッド種のメスを掛け合わせることで、比内地鶏が誕生しました。比内地鶏は、一代雑種（F1）を品種として固定したものです。

比内地鶏の肉質は、歯ごたえがありながらも加熱しても固くなりすぎず、濃厚な旨味が特徴です。特に、秋田県名物のきりたんぽ鍋との相性は抜群で、きりたんぽ鍋セットには比内地鶏の肉とガラで出汁を取ったスープが同梱されるのが一般的です。

比内地鶏ブランドの確立

比内地鶏の高い人気を受けて、全国の飲食店で「比内鶏」と表示した看板を掲げているのを見かけますが、天然記念物である原種の比内鶏が市場に出回ることはありません。一般的に「比内鶏」として販売されているのは、品種改良によって生まれた比内地鶏のことです。

2007年には、比内地鶏の偽装販売事件が発覚し、比内地鶏ブランドの信頼が揺らぐ事態となりました。この事件を教訓に、より厳格な比内地鶏ブランド認証制度が導入され、品質管理が徹底されるようになりました。

秋田県が認証する比内地鶏の規定は以下の通りです。

雄の比内鶏と雌のロード種の交配で作出された一代交雑種であること
28日齢以降は平飼いまたは放し飼いで飼育すること
28日齢以降は1平方メートルあたり5羽以下で飼育すること
雌は孵化日から150日以上、雄は100日以上飼育すること

これらの規定を守り、厳しい品質管理をクリアした比内地鶏のみが、本物の比内地鶏として販売されています。

あきたシャポン：比内地鶏の新たな可能性

あきたシャポンは、比内地鶏の去勢雄鶏のブランド名です。通常、比内地鶏として流通しているのは雌鶏の鶏肉がほとんどで、雄鶏は肉質の違いから雛のうちに廃棄処分されていました。しかし、フランスなどで去勢雄鶏が高級食材として流通していることに着目し、比内地鶏の雄雛を有効活用する試みが始まりました。

秋田県畜産試験場は、効率的な去勢技術を確立し、飼育方法の改良を重ねた結果、「あきたシャポン」のブランド名で出荷できる高品質な去勢雄鶏の生産に成功しました。

あきたシャポンの育成方法は、フランスのブレス鶏のシャポンの育成に準じています。具体的には、以下の手順で育成されます。

1. 孵化した雄の雛を4〜8週間育てる
2. 去勢処理を行う
3. 7〜8ヶ月ほど飼育する（一般的な比内地鶏の雌鶏よりも長期間）
4. 仕上げ期にはケージに入れ、運動を抑制することで脂肪を蓄えさせる

こうして育てられたあきたシャポンは、比内地鶏とは異なる独特の風味と食感を持つ高級食材として、注目を集めています。

まとめ

比内鶏は、秋田県の豊かな自然の中で育まれた貴重な鶏です。その血を受け継ぐ比内地鶏は、厳しい品質管理のもとで生産され、その美味しさは広く知られています。また、近年では、あきたシャポンという新たなブランドも登場し、比内地鶏の可能性はさらに広がっています。機会があれば、ぜひ本場の比内地鶏を味わってみてください。

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