比治山陸軍墓地

比治山陸軍墓地は、広島県広島市南区の比治山公園内にある、かつての旧陸軍の墓地です。現在は、広島比治山陸軍墓地奉賛会によって維持・管理されています。この墓地は、明治初期に開設され、西南戦争から第二次世界大戦までの戦没者たちが眠る場所として、その歴史を刻んできました。

概要

1872年（明治5年）に広島鎮台が設置された際、鎮西鎮台の兵士を弔うために国有墓地として整備されました。当初は、現在のNHKの電波塔や放射線影響研究所の一帯を含む広大な敷地を有していましたが、第二次世界大戦の戦中戦後の混乱によって、その姿は大きく変わります。1960年（昭和35年）に現在の形に再建されるまで、様々な歴史を辿ってきました。

この墓地には、西南戦争から第二次世界大戦までに亡くなった約4,500柱もの兵士が埋葬されており、約3,500基の墓石が並んでいます。その中には、沖縄県以外の日本全国の兵士の他、中国・ドイツ・フランスの兵士の墓も含まれています。また、戦前の小学校教科書に登場した木口小平の名前が刻まれた「日清戦争合同碑」や、小山内建広島衛戍病院長（小山内薫や岡田八千代の父親）の本墓も存在します。

現在、この場所は国有墓地としては認められておらず、正式名称は「比治山南広場」となっています。

歴史

墓地開所から第二次世界大戦直前まで

1872年（明治5年）に比治山南部が陸軍墓地に指定され、建設当初は約2,500坪から約2,800坪（約8,264 m2から約9,256 m2）の広さがありました。当時は火葬が一般的でなかったため、広島で土葬が行われ、遺族は遺族手当などを使い、比治山墓地の土地を購入し、日本全国から墓参に訪れました。また、戦役ごとに報道関係者も訪れていたと言われています。

墓地内には、山陰や四国から運ばれた石で作られた慰霊碑も建立されました。さらに、大正中期頃から1928年（昭和3年）4月まで、高台では正午の時報として空砲が撃たれていました。

第二次世界大戦から戦後の混乱期

1941年（昭和16年）に陸軍省は合葬方式への変更を指示しました。これは高射砲陣地を設置するためで、忠魂碑を1基建てることが目的でした。1944年（昭和19年）から工事が始まり、墓石は撤去され壕に埋められ、遺骨は仮納骨堂に納められました。しかし、1945年8月の終戦により工事は中断。同年9月の枕崎台風や10月の大雨で、墓石や遺骨は流されてしまいました。

墓地があった場所には、その後ABCC（現・放射線影響研究所）が建設されました。中国新聞に掲載された広島市長・浜井信三のインタビューによると、アメリカ軍側が水害被害を恐れ、高台へのABCC移転を求めたため、比治山が選ばれたとされています。当時、GHQの圧力があったものの、浜井市長は市民感情を考慮するよう求め、極力高層でない建物を建設するよう要請しました。

また、当時敷地内に残されていた仮納骨堂、忠魂碑、わずかに残された墓石はABCCの費用で移転されました。仮納骨堂については石碑が造られ、その中に移され、忠魂碑は現在地に移転されました。さらに、I女史の証言によると、当時の市民は土まんじゅうの下に遺骨が埋まっていることを知らず、その上で花見などをしていたと言われています。それらの状況を市役所に訴えても相手にされなかったため、I女史をはじめとする有志が自ら墓地の再建活動を行うことになりました。

再建

1955年（昭和30年）4月に現在地への再建が決定し、翌5月からは有志による掘り出し作業が開始されました。墓石や遺骨の他、軍服、軍帽、金モールなどが出土しました。1956年春には「比治山陸軍墓碑復興会」が設立され、墓石の水洗い、文字の墨入れ、折れた墓石の修復、名簿作成などが行われました。再整備された墓石は、9段のコンクリートの段に設置され、遺骨は4カ所に納められました。また、募金活動も行われ、広島市内の寺や町内会長、企業などから資金が集められました。

再整備は1959年（昭和34年）までに完了し、1960年（昭和35年）10月には寄付金により礼拝堂が建てられました。再建された墓地は、1961年（昭和36年）3月に広島市に寄贈されました。広さは、かつての十分の一以下の2,000 m2となりました。

後年、墓地先端部は整備に尽力したI女史の名前にちなんで「日出の台」と名付けられました。

再建後

1978年（昭和53年）の新聞記事には、放影研の跡地を利用して陸軍墓地の再整備を求める記事が掲載されました。また、放影研の敷地に博物館を建設する構想も存在しました。

放影研の敷地では、再建墓地完成後も、取り残された遺骨が発見されています。

2008年（平成20年）時点では、管理は日本国から広島市に委託され、敷地内の電灯の電気代や水道代、週に1,2回の清掃員派遣が行われています。また、毎日有志による清掃も行われています。しかし、会員の高齢化により、有志による清掃参加者や寄付金は減少傾向にあり、国営化を求める声も上がっています。

寄付金の減少により、月毎の供養で住職を呼ぶことも困難になっているものの、お供え用の花を無償で提供する業者や、毎年4月には合同追悼式が開催され、陸上自衛隊第13旅団も参列しています。

2019年3月までに、広島市による平和の丘第一期工事の一環として陸軍墓地が整備されました。

フランス人墓地

比治山陸軍墓地の一角には、フランス人墓地があります。1900年（明治33年）の北清事変で死亡した兵士を埋葬するために、同年、現在地に造園されました。第二次世界大戦中の陸軍墓地の破壊時にも、この墓地はそのまま残されています。

フランス艦隊が宇品港に来航した際には、乗務員がフランス人墓地に墓参することが慣例となっています。

ギャラリー

(ギャラリーは省略)

脚注・補足

(脚注・補足は省略)

出典

(出典は省略)

参考資料

『ドキュメンタリー原爆遺跡ヒロシマの子の爆心地レポート』（平和文化、1988年）ISBN 978-4938585259
『比治山をめぐる郷土誌』（段原公民館郷土誌クラブ、1985年）
『がんす横丁』（薄田太郎・たくみ出版、1973年）

関連項目

習志野霊園 - 比治山陸軍墓地同様に陸軍墓地を前身に持つ霊園。
小峰墓地 - 熊本県の陸軍墓地を前身に持つ霊園。
真田山陸軍墓地 - 大阪市天王寺区に所在する、陸軍墓地を前身とする霊園。
* 静岡陸軍墓地 - 静岡市葵区沓谷に所在する陸軍墓地。

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