毛倡妓

毛倡妓・毛女郎（けじょうろう）

毛倡妓は、日本の妖怪の一つで、主に鳥山石燕の妖怪画集『今昔画図続百鬼』や江戸時代の黄表紙に登場します。彼女は、長い髪を持つ遊女の姿をした妖怪で、特に遊廓に現れるとされています。

概要

『今昔画図続百鬼』では、毛むくじゃらの姿をした毛倡妓が描かれており、その髪が顔を隠しています。しかし、解説文の中では、ある男が知り合いの女性の後ろ姿を見かけ、駆け寄って顔を見ようとしたところ、全身が毛で覆われた毛倡妓であったという逸話が伝えられています。日本文学研究家のアダム・カバットは、毛倡妓を、もともと顔を持たないのっぺらぼうのような存在と捉える一方で、妖怪研究家の多田克己は、江戸時代の吉原遊廓を風刺した創作物として見ています。

この妖怪の特異な特徴は、石燕が描く多くの妖怪の中でも際立っており、毛倡妓は「青女房」の近くに位置して描かれています。この青女房は、腎虚を患った女性の隠語としても知られており、毛倡妓と同様、女性の「化粧」や「お化け」というテーマが含まれています。これにより、まずは言葉遊びとして石燕が生み出した妖怪である可能性が伺えます。

黄表紙と毛女郎

黄表紙の中で毛女郎として知られる毛倡妓は、主に桜川慈悲成の作品『変化物春遊』に登場します。特に、歌川豊国の描く毛女郎は、石燕の毛倡妓に非常に似ているとされ、彼女に関する異なる描写が伝えられています。この黄表紙に登場する妖怪たちの世界では、毛倡妓は不気味な姿にもかかわらず人気が高く、豊国の作品『大昔化物双紙』においては、男性妖怪たちが毛倡妓を巡って争う様子や、恋仲になる妖怪のために心中立を行う場面が見受けられます。このように、毛倡妓は独特の魅力や神秘を醸し出し、江戸時代の人々の想像力を掻き立てる存在とされていました。

日本と中国の伝承

日本の伝承資料には、毛倡妓のような全身毛だらけの妖怪の記録は見られませんが、中国の古書『投轄録』には、紙銭を焼く煙の中に全身が毛だらけの「毛女」が現れたという記述が存在します。このような話が広がることで、毛女郎や毛倡妓についてのイメージはさらに広がり、多様な解釈が生まれました。

毛倡妓は、ただの妖怪ではなく、遊廓や女性の姿を通して、社会や文化の中での女性の立場や象徴を反映している存在と言えるでしょう。彼女の物語は、江戸時代の人々の心に深く刻まれ、今なお語り継がれています。

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