毛利登人

毛利登人

毛利登人（もうり のぼる）は、江戸時代末期、日本の歴史が大きく動いた幕末期に活躍した長州藩（現在の山口県）の藩士です。諱（いみな）は貞武あるいは武と伝えられています。吉敷毛利家の分家にあたる家柄で、父は六百石の禄高を持つ大組士、毛利虎十郎でした。登人はその嫡男として生まれ、武士としての道を歩みます。彼の生涯は、当時の長州藩内の激しい政治対立や、外国勢力との衝突といった動乱と深く結びついており、特に「甲子殉難十一烈士」の一人として、その最期は後世に語り継がれています。

生涯

毛利登人は、長州藩の藩主であった毛利敬親（たかちか）公の世子、すなわち跡継ぎであった毛利定広（さだひろ。後に明治維新で元徳と改名）に小姓として仕えました。定広公に従って、当時の政治の中心地であり、多くの志士たちが集結していた京都に滞在する機会を得ます。京都では、全国から集まる尊王攘夷を唱える様々な志士たちとの交流を深め、その思想から強い影響を受けました。この経験を通じて、彼は天皇を尊び、外国勢力を排除しようとする、当時の革新的な勤王思想を自らの信念として確立していきました。

文久三年（1864年）、長州藩は欧米列強四カ国（イギリス、フランス、オランダ、アメリカ）の連合艦隊による下関砲撃という軍事行動に直面します。これは世に言う馬関戦争（下関戦争）です。圧倒的な武力差を前に、長州藩は戦闘の継続が困難と判断し、列強との停戦交渉の道を探ることになります。この困難な交渉において、毛利登人は重要な役割を担いました。彼は当時、奇兵隊などを創設した高杉晋作（この時は宍戸刑部と名乗っていました）とともに、藩の代表団の一員として、列強との交渉に臨む副使に任じられたのです。この際、登人は自らの身分を隠すためか、あるいは交渉を有利に進めるためか、「毛利出雲」という藩主一門を思わせる別名を用いました。停戦交渉という、藩の命運を左右する任務を、若き志士であった登人が担ったことは、彼の識見と藩内での信頼の厚さを示すものと言えるでしょう。

しかし、この停戦交渉が成立した直後の同年秋、長州藩は江戸幕府による第一次長州征伐を受けることになり、これに敗北します。藩内では、幕府に恭順する姿勢を示すべきだとする勢力、いわゆる俗論派が台頭し、藩の政治を主導するようになりました。俗論派は、これまでの藩の強硬な尊王攘夷路線が幕府や列強との対立を招いたと考え、その推進者であった急進的な尊王攘夷派（一般に正義派と呼ばれていました）の排除に乗り出します。

毛利登人もまた、熱心な勤王家であったため、この俗論派による粛清の対象となりました。彼は同志であった前田孫右衛門や大和弥八郎らとともに、藩政府から謹慎を命じられ、自宅での蟄居を余儀なくされます。事態はさらに悪化し、同年十二月には、他の多くの尊王攘夷派志士たちとともに、長州藩の囚人を収容する獄舎、野山獄へと投じられました。

野山獄には、俗論派によって危険視された多くの人々が収監されていました。そして同年十二月、俗論派政権は、彼らに対する非情な処断を断行します。毛利登人は、山田亦介、松島剛蔵、前田孫右右衛門、大和国之助、楢崎弥八郎、渡辺内蔵太といった人々と同じく、野山獄で処刑されることになります。この時に処刑された志士たちの多くは、後の高杉晋作らの挙兵によって俗論派が打倒された後に名誉回復され、「甲子殉難」として顕彰されました。毛利登人もまた、この時に犠牲となった十一人の志士、「甲子殉難十一烈士」の一人としてその名が挙げられています。

処刑されるにあたり、毛利登人は辞世の歌を残しました。

「皇（すめろぎ）の 道しるき世を ねかふかな わが身はこけの したにくつとも」

この歌には、「天皇による平和な世が実現することを、心から願っている。たとえ私のこの身が、苔の下に朽ち果てることになったとしても」という意味が込められており、彼の純粋で揺るぎない勤王の志と、自己の犠牲をも厭わない覚悟が如実に表れています。

毛利登人の生涯は、幕末という激動期において、藩主世子の側近くに仕えながら、勤王の志を抱き、馬関戦争における停戦交渉という重要な局面にも立ち会い、そして藩内の政治対立の犠牲となって非業の死を遂げた、一人の志士の軌跡を示しています。甲子殉難十一烈士の一人として、彼は長州藩が明治維新を成し遂げる礎となった多くの犠牲者の中に名を連ねています。

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