民部卿三位

民部卿三位：謎に包まれた女性、その生涯と政治的影響

民部卿三位（みんぶきょうのさんみ）は、鎌倉時代後期に生きた女性で、亀山上皇と後醍醐天皇という二人の天皇の側室であったとされています。征夷大将軍・護良親王（尊雲法親王）の母としても知られています。

しかし、その出自は長く不明であり、様々な説が唱えられてきました。彼女の出自を巡る議論は、当時の政治情勢、特に建武政権や南朝の動向と深く関わっており、中世政治史における重要な争点の一つとなっています。

概要

民部卿三位の出自ははっきりしていません。嘉元3年（1305年）に亀山上皇が崩御する直前に皇子を懐妊し、翌嘉元4年（1306年）に尊珍法親王を出産しました。その後、後醍醐天皇との間に延慶元年（1308年）に護良親王をもうけます。その約20年後、元徳元年（1329年）には、後醍醐天皇の側近である吉田定房と親密な関係にあるという噂が立ちました。

民部卿三位の出自については、

北畠師親の娘である北畠親子とする説
勘解由小路経光の娘である勘解由小路経子とする説
* 北畠師親の娘である北畠資子とする説

などが存在します。

出自を巡る諸説

北畠親子説

古くから有力視されていたのが、公卿・北畠師親の娘である北畠親子とする説です。この説が支持された背景には、護良親王が北畠親房の甥にあたるという、血縁関係の近さが挙げられます。もしこの説が正しければ、建武政権における陸奥将軍府の設置は、後醍醐天皇だけでなく、護良親王と北畠親房の政治的連携によって主導された可能性が高まります。

しかし、20世紀後半に京極派和歌の研究が進むと、北畠親子が伏見天皇の典侍であったことが判明し、この説は否定されることとなりました。

勘解由小路経子説

1988年、森茂暁は、民部卿三位の正体を勘解由小路経光の娘である勘解由小路経子であると提唱しました。この説によれば、護良親王の母は北畠氏とは直接的な血縁関係を持たないことになります。

勘解由小路経子説では、彼女が亀山上皇の後宮に入る以前に、後醍醐天皇の父である後宇多天皇に仕えていた可能性が指摘されています。もしそうであれば、彼女は三代の天皇の皇子を産んだことになり、その恋愛遍歴は複雑なものとなります。

北畠資子説

2009年、岡野友彦は、北畠師親には北畠親子の他に、北畠資子という娘がいたとし、この人物が民部卿三位であるという説を提唱しました。この説を採用した場合、護良親王と北畠親房の政治的同盟の可能性が再び浮上します。

北畠資子説では、彼女が吉田定房の妻となりながらも、後醍醐天皇と密通し、護良親王を産んだという、複雑な人間関係が想定されます。

『太平記』における民部卿三位

軍記物語『太平記』では、民部卿三位は後醍醐天皇の寵姫として描かれています。夫と息子の無事を祈る慈愛に満ちた女性として描かれ、笠置山の戦いで敗北した後醍醐天皇が隠岐に流され、護良親王も行方不明になってしまった際に、北野天満宮へ7日間の参籠し、夫と息子の無事を祈る姿が描かれています。

まとめ

民部卿三位は、鎌倉時代後期という激動の時代を生きた女性であり、その出自を巡る議論は、当時の政治情勢や人間関係を複雑に反映しています。彼女の生涯は、中世史研究における重要なテーマの一つとして、今後も議論されていくことでしょう。

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