気仙沼ホルモン

宮城県気仙沼市を中心に親しまれている豚のホルモン焼き料理が「気仙沼ホルモン」です。この独特の食文化は、かつて国内有数の漁港であった気仙沼漁港の発展によってもたらされた人々の交流や、遠洋漁業に従事する船員たちの健康維持への配慮などが背景となって根付きました。

特徴

気仙沼ホルモンには、主に以下の三つの独自性が挙げられます。

1. 生の豚モツを使用：一般的なホルモン焼きとは異なり、事前にボイルせず生の新鮮な豚のモツを用います。
2. 白モツと赤モツを一緒に：小腸、大腸、ガツといった「白モツ」だけでなく、ハツやレバーといった「赤モツ」も区別なく使用します。
3. 特製味噌ニンニクだれに漬け込む：これらのモツを、秘伝ともいえる味噌ベースのニンニクだれにまとめて漬け込みます。風味付けに唐辛子も加えるのが一般的です。

加えて、焼いたホルモンを食べる際に、ウスターソースをかけた千切りキャベツを添えるのが気仙沼ホルモンの大きな特徴です。このキャベツと一緒に食すことで、さっぱりとした味わいが加わります。

調理法としては、炭火焼きが理想とされますが、飲食店では必ずしも炭火に限定されない場合もあります。また、各店舗や家庭によって使用するタレなどに多少のアレンジが加えられていることもあります。

歴史

三陸海岸に位置し魚介類が豊富な気仙沼ですが、古くは1886年（明治19年）には食肉販売や乳牛飼育が行われていました。1981年（昭和56年）まで市営の屠畜場も存在しており、この食肉処理施設があったことから、戦前から豚モツを食する習慣があったという説と、逆にあまり一般的ではなかったという説の両方が存在します。

戦後の占領期を経て、1951年（昭和26年）に気仙沼漁港が第3種漁港に指定され、翌1952年（昭和27年）にマッカーサー・ラインが廃止されると、北洋漁業やマグロ延縄漁の拠点として多くの漁船員やその家族が気仙沼に集まるようになりました。この時期、気仙沼市内の精肉店の経営者が、韓国の方から学んだ味噌ニンニクの味付けを、当時比較的安価であったホルモンに応用したことが、後の気仙沼ホルモンの味の原型になったと言われています。また、三重県で鰻屋を営んでいた人物が、漁業景気で活気づく気仙沼に移り住んだ際、この味噌ニンニク味のホルモン焼きに出会い感銘を受け、市内にホルモン専門店を開いたというエピソードも伝えられています。

さらに、長期にわたる船上生活で野菜不足になりがちな漁船員の栄養バランスを考慮し、ホルモン焼きに千切りキャベツを添えて提供するスタイルが始まりました。この独特の食べ方が、船員たちを通じて次第に市民の間にも広まっていったとされています。

1969年（昭和44年）には最上位の特定第3種漁港に指定されるなど、漁業の町として発展を続ける中で、気仙沼ホルモンは約半世紀にわたり地域の食卓や飲食店で親しまれ続けました。多い時期には市内におよそ30軒ものホルモン専門店があったと記録されています。また、春の花見、夏のバーベキュー、秋の芋煮会といった野外での集まりや、一般家庭においても、七輪でホルモンを焼いて楽しむ光景が日常的に見られました。

地域おこしと普及

気仙沼のホルモン焼きが持つ独自の特色に、地元有志による街づくりサークル「気楽会」が着目したのは2006年（平成18年）のことです。彼らは市内のホルモン焼きに関する実態調査を行い、これを「気仙沼ホルモン」という名称で統一し、明確な定義付けを行いました。さらに、「気仙沼ホルモン」が味わえる店舗を紹介する地図や応援歌を作成するなど、積極的なPR活動を開始しました。

この活動に触発された気仙沼市役所の商工課は、市の特産品として「気仙沼ホルモン」のPRをウェブサイトで展開。気仙沼商工会議所もイベント用として七輪を多数購入し、無料で貸し出すなど、地域を挙げた支援が行われました。2006年は地域団体商標制度が始まり、地域ブランドの確立を目指す動きが全国的に活発化した時期であり、B-1グランプリが開始された年でもありました。

2007年（平成19年）からは「気仙沼ホルモンまつり」が開催されるようになり、地域のイベントとしても定着しています。また、「仙台・宮城デスティネーションキャンペーン」や、全国ネットで放送されたテレビ番組『秘密のケンミンSHOW』などで紹介されたことにより、「気仙沼ホルモン」の知名度は全国レベルで向上しました。

現在では、「気仙沼ホルモン」を看板に掲げる飲食店が、地元気仙沼だけでなく、仙台市や遠く群馬県高崎市にも存在します。また、気仙沼市内の精肉店などが、家庭や贈答用として味噌ニンニクだれに漬け込んだ「気仙沼ホルモン」を店頭や通信販売で扱っており、気仙沼を訪れることなく全国どこでもその味を楽しむことができるようになっています。なお、仙台市内には、気仙沼ホルモンと宮城県のもう一つのご当地ホルモンである岩沼とんちゃんの両方を提供する珍しい店舗も存在します。

気仙沼ホルモンは、港町の歴史と人々の創意工夫が生んだ、地域に深く根差したソウルフードとして、その魅力を広げ続けています。

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