水俣湾

水俣湾（みなまたわん）について

水俣湾は熊本県水俣市に位置する、八代海に面した小さな湾です。長い歴史を持つこの湾は、古くより豊かな水産資源に恵まれ、多くの漁業が行われてきました。しかし、1932年から稼働した日本窒素肥料（後のチッソ）のアセトアルデヒド工場は、水銀を触媒として使用しており、その廃水が湾の水質を汚染する原因となりました。

水俣病の発生

この工場から排出されたメチル水銀が原因で発生したのが、1930年代に報告された水俣病です。当時はその発生機序が理解されておらず、患者が公式に認知されたのは1956年（昭和31年）のことでした。その後、1958年には熊本県が水俣湾での漁獲を中止する通達を行い、水俣湾での漁業は事実上停止しました。経緯を経て、1968年には政府がメチル水銀を水俣病の原因として公式に認定し、汚染を引き起こしていた工場も停止されました。

水俣湾の汚染は続き、1974年には熊本県が汚染された魚を封じ込めるための仕切網を設置しました。その後、1977年から埋立工事が始まり、1990年に完了としました。1997年には「水俣湾の安全宣言」が出され、仕切網は撤去されましたが、水銀の調査はその後も継続して行われています。さらには、稚魚の放流や海底の清掃、産卵場と稚魚の育成場を造るための「海草の森」の造成など、新たな環境回復プロジェクトも進められています。

環境調査の現状

水俣湾の環境については、国立水俣病総合研究センターが調査を行い、その成果を年報として発表しています。最も最近の報告では、水俣湾の底質における水銀濃度は依然として高いことが示されています。具体的には、717カットの底質サンプルの総水銀濃度の平均値が6.2ppmで、表層のみの平均は3.2ppmとなっています。これは東京湾の底質と比較すると、東京湾の0.43μg/gに対し、水俣湾は3.7μg/gと約8倍の高さです。

また、水俣湾に生息する魚類についても1997年の安全宣言以降、毎年熊本県による調査が行われています。2023年の調査によると、魚体の調査結果は国の規制値を下回っており、具体的にはカサゴのメチル水銀濃度が0.20ppm、ササノハベラが0.11ppmであったことが確認されましたは、これは安心できる数値です。

課題と未来

水俣湾は、環境回復に向けて多くの努力が重ねられていますが、現在でも様々な課題が残っています。例えば、埋立地の護岸に使用された鋼矢板の耐用年数や、大地震における液状化現象など、今後の環境保護および防災の観点からの検討が必要です。水俣湾の復興は、ただ環境問題を解決するだけでなく、地域社会の振興や復活への道をも含んでいます。これからの動向に注目が集まります。

もう一度検索