水島治郎

水島 治郎（みずしま じろう）

水島治郎氏は、日本の政治学者として、特にオランダの政治史や現代政治に関する深い知見で知られています。1967年9月4日に東京都八王子市で生を受けました。その学術的な道のりは、東京大学教養学部を卒業後、オランダのライデン大学への留学（1994年から1995年まで）を経て、東京大学大学院法学政治学研究科で修了し、法学の博士号を取得したことによって築かれました。研究者としてのキャリアは、日本学術振興会の特別研究員から始まり、甲南大学法学部の助教授を経て、現在は千葉大学法政経学部の教授として教鞭をとる傍ら、精力的に研究活動を続けています。

水島氏の研究の中心にあるのは、オランダという国を対象とした政治史及び現代政治の分析です。初期の研究では、第二次世界大戦後のネオ・コーポラティズムや所得政策といった、労使協調に基づく独特な政治経済構造に光を当てました。これは、著書『戦後オランダの政治構造――ネオ・コーポラティズムと所得政策』（東京大学出版会、2001年）として結実しています。この研究は、分断された社会をいかに統合し、合意形成を図るかというオランダ政治の核心に迫るものでした。

研究はさらに広がりを見せ、福祉国家の変容という現代的な課題にも取り組んでいます。特に、福祉国家モデルとして注目されたオランダが、どのように変化を遂げてきたのか、その光と影を詳細に分析した『反転する福祉国家――オランダモデルの光と影』（岩波書店、2012年／岩波現代文庫、2019年）は、多くの議論を呼びました。この分野における研究は、福祉国家と移民問題、中間団体の役割、そして公正社会のあり方といった、より広範なテーマへと接続されています。

近年、国際的にも大きな潮流となっているポピュリズムに関しても、水島氏は先駆的な研究を進めています。ポピュリズムが現代デモクラシーにとって敵なのか、あるいは改革の希望となりうるのかという問いを立て、その本質に迫った『ポピュリズムとは何か　民主主義の敵か、改革の希望か』（中公新書、2016年）は、学術的な深さと社会への問いかけが評価され、2017年に第38回石橋湛山賞を受賞しました。この著作は、日本のポピュリズム研究に大きな影響を与え、一般の読者にもこの複雑な現象を理解するための重要な手がかりを提供しています。

オランダに関する最新の研究成果としては、移民都市アムステルダムにおけるユダヤ人の歴史と社会に焦点を当てた『隠れ家と広場　移民都市アムステルダムのユダヤ人』（みすず書房、2023年）があります。これは、特定のマイノリティ集団に焦点を当てることで、都市空間、歴史、そして政治の関係性を読み解こうとする試みです。

水島氏は単著のみならず、多様な研究者との共同研究や編著も積極的に行っています。福祉社会、ポピュリズム、デモクラシーと王室・皇室、公正社会など、現代社会が直面する多岐にわたる課題について、共同で考察を深めた成果を数多く発表しています。また、オランダ関連の重要な文献の翻訳も手がけており、学術研究のみならず、国外の重要な知見を日本に紹介する役割も担っています。

発表された論文も多数に上り、初期のオランダ政治体制の形成から、キリスト教民主主義の変容、中間団体の政治、新たな雇用・福祉国家モデル、コンセンサスデモクラシーの変質など、幅広いテーマを詳細かつ実証的に分析しています。これらの論文は、専門分野における水島氏の貢献を示す重要な証拠です。

水島治郎氏の研究は、特定の国の政治システムを深く掘り下げることから出発しつつも、現代社会が共通して抱えるデモクラシー、福祉、多様性といった普遍的な課題へと接続されています。その分析は、現代政治の複雑さを理解するための重要な視座を提供しており、今後の研究成果にも期待が寄せられています。

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