水滸伝 (漫画)

作品概要と特色

『水滸伝』は、中国四大奇書に数えられる同名の古典を漫画化した、横山光輝による壮大な歴史ロマン作品です。1967年から1971年にかけて、潮出版社の雑誌『希望ライフ』および『希望の友』に連載されました。本作は、後に大ヒットを記録する『三国志』へと続く、横山光輝が手がけた最初の中国歴史漫画として重要な位置を占めています。

原作は百二十回本を底本とし、物語の大筋は比較的忠実に追っています。しかし、当時の少年漫画としては異例の長編でありながらも、原作と比較すればコンパクトにまとめられており、ストーリーの進行においては随所に省略や改変が見られます。特に、少年誌の読者層を考慮し、原作に登場する残虐な描写や性的な描写は大幅に削られています。また、連載当時は日中国交正常化前であったため、資料が入手しづらかった背景から、細部において原作との相違や描写の誤りも確認できます。

登場人物

梁山泊に集う個性豊かな好漢たちの多くが登場しますが、限られたページ数のため、一部の人物は省略されたり、原作とは異なる描かれ方をされています。

晁蓋: 原作通りの壮年で威厳ある姿で描かれ、役割もほぼ同じです。ただし、原作以上に他の好漢からの尊敬を集めている描写が増えています。生辰綱強奪事件の発覚経緯は原作から変更され、一味ではない人物の密告が原因とされます。
宋江: 原作の偽善的な側面がほとんど排され、手裏剣を使いこなすなど豪傑としての側面が強調されています。殺人者となった原因も原作の閻婆借ではなく、別のやくざ者とのトラブルに変更されています。
盧俊義: 原作に沿った長身の姿ですが、北京大名府陥落時に妻を自ら討ち果たす場面が加筆されています。曾頭市で晁蓋を討った史文恭への仇討ちを果たす役割も担います。
呉用: 「呉学人」や「軍師」と呼ばれ、小柄で若い容貌です。原作のお茶目な性格がやや誇張されて描かれています。
公孫勝: 「一清道人」として登場し、最初は作者による他のキャラクターとの混同から妖術が使えず、後に習得するという独自の展開があります。
林冲: 登場するたびに容姿が若返り、後の横山作品『三国志』の劉備に酷似した姿になります。得物が蛇矛から棍に変更されるなど、原作からの改変が見られます。テレビドラマ版では彼が主人公を務めています。
秦明: 主要な出番は部下の黄信に置き換えられており、本編ではわずかに姿を見せるにとどまります。
呼延灼: 恰幅のよい髭面で描かれ、得物の形状が原作と異なります。
花栄: 原作とは大幅に異なる尖った髪型で、宋江とは親密な関係性が強調されています。原作とは異なるエピソードも描かれます。
柴進: 横山作品における紳士的な容貌で描かれ、李逵が彼の邸宅に滞在する理由などが原作から変更されています。
魯智深: 日本的な衣装の荒くれ坊主風に描かれます。鄭関西殺害後、五台山を経由せず直接東京へ向かい出家するなど、原作の経緯が省略・変更されています。
武松: 本編には登場せず、後に一話の外伝の主人公として描かれます。外伝では潘金蓮や兄嫁殺し、西門慶への仇討ちなどのエピソードが原作より詳細かつ過激にアレンジされています。原作に登場する多くの人物（宋江との邂逅、王婆、鴛鴦楼以降のエピソードなど）が省略されています。

他にも戴宗、李逵（「鉄牛」と呼ばれる）、史進、阮三兄弟、張順、解珍・解宝、燕青、黄信、孫立など多くの好漢が登場し、それぞれ容姿やエピソードに多かれ少なからず原作との違いが見られます。

一方、関勝、董平、張清、徐寧、李応、朱仝、雷横、楊雄、楊林、童威・童猛、曹正、白勝、安道全、皇甫端など、原作の主要人物でありながら本作には登場しない好漢も少なくありません。これは、物語のコンパクト化や、少年誌に不向きなエピソードに関連する人物であったためと考えられます。

原作との主な違い

本作では、特定の人物にまつわるエピソードが大きく変更または省略されています。例えば、楊志の生辰綱護送失敗のエピソードは省略され、彼の行方も原作とは異なります。武松の後半生や、薊州における楊雄や石秀らのエピソードも描かれていません。また、原作の後半で詳しく描かれる遼国、田虎、王慶、方臘といった勢力との戦いは、あらすじ程度に簡略化されています。

最も大きな違いは結末です。原作では多くの好漢が悲惨な最期を迎える陰鬱な終わり方ですが、本作では多くの仲間を失いながらも、皇帝に功績を認められ、奸臣が叱責を受け、褒賞を得るという、原作よりも明るく前向きな、事実上のハッピーエンドとして物語が閉じられています。

刊行とメディア展開

本作は、単行本（全8巻）、文庫版（全6巻）、決定版（全6巻）として繰り返し刊行されています。単行本の第8巻や文庫版には、本編には登場しない武松、項充、樊瑞などを主人公とした外伝が収録されています。

メディアミックスとしては、1973年から1974年にかけて日本テレビ系で放送されたテレビドラマ『水滸伝』の原案となっています。また、1992年から制作されたOVA『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』には、スター・システムとして本作に登場する好漢たち（戴宗、鉄牛、呉用など）が、超人的な能力を持つキャラクターとして姿を見せています。

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