永川の戦い

永川の戦い（1950年9月）

永川の戦いは、朝鮮戦争中の1950年9月、大韓民国陸軍（韓国軍）と朝鮮人民軍（人民軍）の間で発生した戦闘です。永川は、大邱と慶州のほぼ中間に位置し、中央線と大邱線の分岐点という交通の要所でした。このため、永川を確保することは、韓国軍の防衛線を維持し、人民軍の進撃を阻止する上で非常に重要でした。

戦闘に至る経緯

1950年8月末、永川は戦略的に重要な地点として、両軍から重視されていました。永川を掌握することで、人民軍は韓国軍第1軍団と第2軍団の背後を遮断し、戦況を有利に進めることが可能でした。そのため、韓国軍は第8師団をこの地域に配備し、人民軍の侵攻に備えていました。第8師団は、約18キロの戦線を担当し、西から第21連隊、第3連隊第1大隊、第16連隊、第5連隊を配置していました。しかし、隷下の第10連隊は浦項方面に転用されており、戦力に不安を抱えていました。

両軍の編成

国連軍（韓国軍）

第8軍：司令官 ウォルトン・ウォーカー中将
第2軍団：軍団長 劉載興准将
第8師団：師団長 李成佳准将
第10連隊：連隊長 高根弘中領（9月8日原隊復帰）
第16連隊：連隊長 兪義濬中領
第21連隊：連隊長 金容培大領
第3連隊第1大隊：大隊長 鄭震少領
第5連隊：連隊長 崔昌彦大領
第8連隊：連隊長 朴昇日中領
第7師団：師団長 申尚澈大領
配属部隊
第11連隊：連隊長 金東斌大領
第19連隊：連隊長 金益烈大領
第26連隊第3大隊：大隊長 申健善大尉
第18連隊第2大隊：大隊長 鄭昇和少領
空軍偵察
飛行部隊長：呉占石大尉

人民軍

第2軍団：軍団長 武亭中将
第15師団：師団長 朴成哲少将（9月5日から趙烈光少将）
第48連隊：連隊長 金致九大佐
第49連隊：連隊長 李鉄英総佐
第50連隊：連隊長 李乙雪総佐
砲兵連隊：連隊長 李連燮大佐
第73独立連隊：連隊長 李周容中佐
第103連隊：連隊長 李鍾萬大佐

戦闘の経過

9月2日、人民軍第15師団は遊鶴山から転進し、第8師団の正面に攻撃を開始しました。9月4日、師団長の朴成哲少将は、武亭中将から「第12師団は既に慶州を占領したのに、なぜ永川を占領できないのか」と激しく叱責されました。9月5日午前1時、人民軍第15師団は3個連隊を並列に展開し、第73独立連隊と第103連隊を予備として、166門の砲兵支援を受けながら総攻撃を開始しました。豪雨のため、韓国軍は航空支援を受けることができず、混戦状態に陥り、砲兵支援もままなりませんでした。これにより、第8師団の中央が突破され、永川は危機に瀕しました。

この事態を受け、韓国陸軍本部は、慶州へ転進中の第18連隊から第2大隊を抽出して第8師団に配属し、第8師団を第2軍団の隷下としました。劉載興軍団長は、第1師団と第6師団からそれぞれ第11連隊と第19連隊を抽出して第8師団に配属しました。さらに、米軍戦車1個小隊（M46パットン5両）の支援を要請しました。9月6日早朝、人民軍第15師団は永川を占領しました。当時、韓国軍は永川西側を雑多な部隊で防御していただけで、第15師団が河陽へ突進すれば第2軍団は崩壊する可能性もありました。しかし、第15師団は慶州方面へ南下しました。この状況を利用し、第8師団長の李成佳准将は、第9工兵大隊に永川を奪還させました。その後、人民軍は反撃を試みましたが、米軍戦車小隊の支援を受けた韓国軍に撃退されました。

9月7日から韓国軍の反撃が開始され、9月13日まで戦闘が続きました。この戦闘で、人民軍第15師団はほぼ殲滅され、韓国軍は射殺3,999名、捕虜309名、戦車5両、装甲車2両、トラック85両、各種砲14門、火器2,327丁を破壊または鹵獲する戦果を挙げました。

戦いの結果と影響

永川の戦いは、韓国軍が人民軍の攻勢を食い止め、反撃に転じるための重要な転換点となりました。この戦いで、韓国軍は戦力を立て直し、以後の戦局において主導権を握ることに成功しました。

参考資料

白善燁『指揮官の条件 朝鮮戦争を戦い抜いた軍人は語る』草思社、2002年
佐々木春隆『朝鮮戦争/韓国篇 下巻 漢江線から休戦まで』原書房、1977年
韓国国防部軍史編纂研究所 “韓國戰爭史第3巻 洛東江防禦作戰期（1950.8.1～9.30）” (PDF)

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