永田徳本

永田徳本の生涯

永田徳本（ながた とくほん）は、16世紀後半から17世紀初頭にかけて活躍した医師です。生年は1513年頃と推定され、没年は1630年とされています。戦国時代から江戸時代初期という激動の時代を生き、その間、医師として多くの人々の命を救いました。

通称は「甲斐の徳本」のほか、「十六文先生」や「医聖」とも呼ばれ、その名声は当時から広く知られていました。号としては知足斎や乾室などを使用しました。

生い立ちと修行時代

徳本の出自については諸説ありますが、有力なものとして三河大浜（現在の愛知県）で生まれたという説があります。幼少期に仏門に入り、陸奥国（現在の東北地方）で修行を積んだと伝えられています。その後、出羽国（現在の山形県と秋田県の一部）で修験道を学びました。医学の道に進んだのは、田代三喜や玉鼎といった当時の名医に師事し、李朱医学（明から伝わった漢方医学）を学んだことがきっかけです。

医師としての活動

徳本は、信濃国（現在の長野県）や甲斐国（現在の山梨県）に移り住み、武田信虎・信玄父子二代に仕え侍医を務めたとされています。武田家滅亡後は、東海地方や関東地方を放浪し、貧しい人々を対象に無料で薬を与えたり、安価で診療を行う医療活動を行いました。

特に有名なのは、報酬として16文（または18文）以上を受け取らなかったというエピソードです。薬袋を首から下げ、牛の背に横たわって諸国を巡回し、どんな治療でも一律の金額しか受け取らなかったことから「十六文先生」と呼ばれるようになりました。本草学にも通じ、103歳頃には甲斐でブドウの棚架け法を改良したという伝説もあります。

また、江戸時代に入ってからは、将軍徳川秀忠の病を治癒した際も報酬を受け取らずに立ち去ったという逸話が残っており、その高潔な人柄が偲ばれます。

晩年と死

徳本は118歳という驚異的な長寿を全うし、1630年にこの世を去りました。晩年は長野県岡谷市に住んでいたとされ、現在も同地に墓碑が残っています。著書としては『梅花無尽蔵』、『徳本翁十九方』、『医之弁』などが知られています。

関連する逸話と後世への影響

徳本の名前は、現代の製薬会社「トクホン」の社名の由来となっています。直接的な繋がりはありませんが、その名声にあやかって命名されました。また、上高地への主要なアクセスであった「徳本峠」も、彼の名にちなんで名付けられました。

岡谷市の墓碑は、いぼ取りの神様として信仰を集めており、墓石を小石で叩くとイボが治ると言われています。そのため、墓石は凹凸が激しく、損傷が激しい状態です。一時、林羅山を弟子としていたことがありましたが、その才能を見抜き、他の道に進むことを勧めたというエピソードも残っています。

徳本の出自について三河の出身説を採用する場合、源義朝を討った長田親政の子孫である長田広正の子で、長田重元の弟であるとされ、秀忠の側近であった永井直勝（重元の息子）の叔父にあたるとされています。

徳本は、その医学知識だけでなく、貧しい人々を救済する献身的な姿勢から、多くの人々に敬愛されました。彼の生涯は、医師としてのあり方だけでなく、人間としての生き方についても多くのことを教えてくれます。

参考資料

矢部一郎「永田徳本」『国史大辞典』 第10、吉川弘文館、1989年。
宗田一「永田徳本」『日本史大事典』 第1、平凡社、1992年。
「永田徳本」『戦国人名事典』新人物往来社、1987年。

関連作品

大江戸医聞　十八文 - 石ノ森章太郎の漫画作品

外部リンク

『知足齋永田先生遺稿』国立国会図書館デジタルコレクション
永田徳本 - コトバンク

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