江尻城

江尻城は、現在の静岡県静岡市清水区江尻町に位置していた日本の城です。1570年、戦国時代の武将、武田氏によって築城されました。この城は、巴川を天然の防御線として利用した微高地に建てられた平城であり、本丸を中心に周囲を囲む輪郭式の構造を持っていました。

築城の背景には、武田氏による駿河侵攻があります。1568年の侵攻によって、武田氏は三河の徳川氏との間で対立関係になり、江尻城は、その最前線に位置する重要な拠点となりました。また、折戸湾の西に位置していたため、武田水軍や水運とも密接な関係があったと考えられています。

近世の絵図によると、江尻城には甲州流築城術の特徴である丸馬出しが3箇所設けられていました。また、堀は巴川から水を引き込んだ水堀でした。東西400m、南北260mという規模は、近世の城郭にも匹敵するほどでした。

築城は、1568年末の武田氏の駿河侵攻と同時期に行われたとされています。武田家臣の馬場信春が縄張りを行ったと伝えられています。当初、城代は山県昌景が務め、彼は徳川氏との取次役も担っていました。山県は、1569年に蒲原城を攻略した後、江尻城に入城し、奥三河の山家三方衆をはじめ、遠江・三河における軍事を統括しました。1570年にも駿河先方衆による普請が続けられていたと記録されています。

山県昌景の死後、1575年頃には穴山信君が城代を務めました。穴山信君は、城の改修を行い、家臣を配置しました。その後、信君は織田・徳川氏に内通し、1582年の織田・徳川連合軍の武田領侵攻に際して城を開城し、降伏しました。

武田氏滅亡後、江尻城は徳川氏の勢力下に入り、穴山勝千代が城代を務めましたが、勝千代の夭折により1601年に廃城となりました。

現在、江尻城の遺構は市街地化によって失われ、当時の姿を偲ぶことはできません。しかし、本丸跡は清水江尻小学校の敷地となっており、周囲には大手町、二の丸町といった地名が残っています。

江尻城は、武田氏の駿河経営において重要な役割を果たした城であり、その戦略的な位置と構造は、戦国時代の歴史を物語る上で重要な要素となっています。

参考文献
柴辻俊六「穴山信君の文書と支配領域」『戦国大名武田氏領の支配と構造』（名著出版、1991年）

関連人物
馬場信春
* 穴山梅雪

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