江崎孝坪

江崎孝坪は、1904年に長野県上伊那郡高遠町（現在の伊那市）で生まれました。本名を江崎孝平といい、幼い頃から画家を志し、15歳で上京しました。生活のため呉服商で図案を描きながら、日本画家の蔦谷龍岬に師事し、大和絵を学びました。1927年には、第8回帝展で「晩秋」が初入選を果たし、その才能を世に知らしめました。

1933年に龍岬が亡くなると、前田青邨に師事し、さらに画技を磨きました。1940年には、大礼記念京都美術館で開催された日本画大展覧会で、「雲と防人」が大毎・東日賞を受賞しました。翌1941年には、第4回新文展で「撃て」が特選に選ばれるなど、その実力は高く評価されました。

戦後も江崎の活躍は目覚ましく、1947年の第3回日展では「像造」が特選に選ばれました。また、大仏次郎の『乞食大将』、吉川英治の『太閤記』、井上靖の『風と雲と砦』、『真田軍記』、『風林火山』といった数々の小説に挿絵を描きました。さらに、黒澤明監督の映画『七人の侍』では衣装考証を担当し、その仕事は1957年の第29回アカデミー賞で衣裳デザイン賞にノミネートされるという形で国際的にも評価されました。また、歌舞伎「新忠臣蔵」では舞台装置を製作するなど、幅広い分野でその才能を発揮しました。

1963年6月27日、江崎は目黒区の自宅で脳軟化症のため亡くなりました。享年59歳でした。江崎家の菩提寺である高遠の建福寺には、1950年に第6回日展に出品した『薬師』が寄贈されています。

没後も江崎の功績は忘れられることなく、1992年には長野県信濃美術館・東山魁夷館で「近代の歴史画展 江崎孝坪と武者絵の系譜」が開催されました。また、2009年には長野県伊那文化会館で「歴史画家 江崎孝坪の仕事展」が開催されるなど、その作品は今もなお多くの人々を魅了し続けています。

江崎孝坪は、歴史画の分野において確固たる地位を築いただけでなく、映画や舞台美術など、多岐にわたる芸術分野でその才能を発揮した、まさに多才な芸術家でした。

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