汪応蛟

汪応蛟（おう おうこう）は、明代後期の官僚であり、政治家としてその名を歴史に刻みました。嘉靖29年（1550年）に生まれ、字を潜夫、号を登原と称しました。本貫は徽州府婺源県です。彼は、万暦2年（1574年）に進士に及第し、その官僚としてのキャリアをスタートさせました。

初期の官僚生活では、南京兵部主事や南京礼部郎中を歴任しました。この時期、彼は吏部侍郎の陸光祖と御史の江東之が互いに告発しあう事件に遭遇します。汪応蛟は陸光祖を不実と見なし、これを弾劾しました。その後、山西按察使に昇進し、易州の兵を統轄するようになりました。この地で、鉱使の王虎が不正な収奪を行っている事実を察知し、朝廷に報告しましたが、万暦帝からの返答はありませんでした。

万暦26年（1598年）、豊臣秀吉による朝鮮再侵攻（慶長の役）が起こると、明朝は朝鮮へ援軍を派遣します。天津巡撫の万世徳が朝鮮に派遣されることになったため、汪応蛟が後任として天津巡撫に任命されました。彼はこの地で水利工事や荒地の開墾に尽力し、民政に手腕を発揮しました。また、兵士の食事の改善を度々上申し、軍の士気向上に貢献しました。税使の王朝が死去した際には、万暦帝が後任を派遣しようとしましたが、汪応蛟はこれを諫め、帝の怒りを買いました。

朝鮮での戦乱が終結すると、汪応蛟は保定巡撫に転任しました。保定では旱魃と蝗害が発生したため、彼は食料の配給や救済活動に尽力しました。さらに、北京周辺の民衆が困窮している状況を万暦帝に訴え、鉱税の免除を求めました。柳勝秋らが北京周辺の税収は銀13万に及ぶと主張した際には、汪応蛟は三度にわたる上疏を行い反論し、税収を半減させることに成功しました。万暦30年（1602年）春、万暦帝は鉱税の停止を命じましたが、間もなく復活させました。これに対し、汪応蛟は再び上疏して争いましたが、聞き入れられませんでした。その後、彼は北京に召還され、工部右侍郎に任命されましたが、病を理由に辞職しました。万暦33年（1605年）には、兵部左侍郎に任じられましたが、親の介護を理由に出仕しませんでした。

泰昌元年（1620年）には、南京戸部尚書として官界に復帰しました。天啓元年（1621年）6月には、北京に入朝し、戸部尚書となりました。彼は民力の涵養のために十八事を列挙した上疏を行い、天啓帝に受け入れられました。また、熊廷弼が三方に軍隊を配置する戦略を立案し、軍の糧食1200万を要求した際には、汪応蛟はこれに強く反対しました。泰昌帝の服毒死事件（紅丸の案）を巡る朝廷の議論では、崔文昇・李可灼を法で処断し、方従哲の官爵を剥奪して平民戸籍に編入するよう主張しました。

天啓帝の保母である客氏が、墓地を過度に要求した際、汪応蛟はこれを拒否したため、客氏の恨みを買いました。老齢を理由に職務を全うできないという声が上がると、汪応蛟は自ら引退を願い出ました。天啓2年（1622年）12月、太子少保の位を加えられ、致仕して帰郷しました。辞職にあたっては、宋代の儒者の言葉を引用して、宦官や宮妾を警戒するよう天啓帝に上奏しました。

崇禎元年（1628年）2月26日、汪応蛟は自宅で息を引き取りました。享年78歳でした。彼の著書には、『学詩略』1巻が残されています。汪応蛟は、その生涯を通して、民政の安定と国政の公正に尽力した官僚として、歴史に名を刻みました。

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