沈黙 (オペラ)

松村禎三作曲 オペラ『沈黙』

日本の作曲家、松村禎三が遠藤周作の歴史小説『沈黙』を題材に作曲したオペラです。松村自身が台本を手掛け、1993年に日生劇場で初演されました。このオペラは、信仰、迫害、人間の弱さといった深いテーマを扱い、観客に強い印象を与えます。

作曲の経緯

1980年、サントリー音楽財団からの委嘱を受け、松村はオペラ作品の制作に着手しました。自ら『沈黙』を題材に選び、台本執筆と作曲に取り組みましたが、当初の契約期間を大幅に超え、1993年に完成しました。初演は、日生劇場開場30周年記念事業、平成5年度文化庁芸術活動特別推進事業の一環として、若杉弘指揮、鈴木敬介の演出により行われました。

主要登場人物

ロドリゴ: 若いポルトガル人宣教師。恩師フェレイラの消息を追って日本に渡り、布教活動を行います。
フェレイラ: 実在の人物クリストヴァン・フェレイラをモデルとした人物。ロドリゴが再会した時には、すでにキリスト教を捨て、キリシタン弾圧に加担しています。
ヴァリニャーノ: マカオの教会の神父で、布教学院の院長。ロドリゴの日本行きを止めようとします。
キチジロー: ロドリゴの案内役を務める転びキリシタン。両親と妹もキリシタンでしたが処刑されています。
モキチ: 強い信仰を持つキリシタンで、作中で殉教します。
オハル: 若い娘で、モキチの恋人。モキチの死に直面して狂乱し、捕らえられて死亡します。原作には登場しない、オペラオリジナルの人物です。

あらすじ

第1幕

第1場「火磔」: キチジローの両親と妹が火刑に処される場面。殉教者たちの合唱と、村人たちのキチジローを責める声が交錯します。
第2場「マカオの教会」: ヴァリニャーノは、日本潜入を望むロドリゴを説得しようとしますが、彼の熱意に押され、キチジローを紹介します。
第3場「間奏曲」
第4場「トモギ村の納屋」: 長崎近郊のトモギ村の納屋で、キリシタンたちがロドリゴを囲んで祈ります。オハルとモキチは幸福な二重唱を歌います。
第5場「山上のアリア」: ロドリゴが主を讃えるアリアを歌います。
第6場「丘の上」: キチジローとモキチを含む4人が捕らえられたことが告げられます。
第7場「踏み絵」: 捕らえられた4人が踏み絵を強要されます。キチジローのみが踏み絵を踏み、聖母マリアを冒涜する言葉を叫びますが、恐怖に震えうずくまります。
第8場「水磔」: モキチを含む3人が水磔にされます。オハルは狂乱して倒れ伏し、モキチの殉教の歌声に村人たちが唱和します。
第9場「海沿いの断崖の上」: モキチの死に無力さを感じたロドリゴは、キチジローに許しを乞われます。告解を始めたところに追っ手が現れ、ロドリゴは捕らえられます。実はキチジローが密告者でした。

第2幕

第10場「長崎の牢」: ロドリゴは長崎奉行の井上筑後守から尋問を受けます。フェレイラが転びバテレンになったと聞き、動揺します。捕らえられたトモギ村の信徒たちが連行され、オハルはモキチの幻影を見て息絶えます。
第11場「海辺」: 村人たちが処刑されようとしています。井上は、ロドリゴが棄教すれば皆の命が助かると言いますが、ロドリゴは拒否します。
第12場「牢」: ロドリゴはフェレイラと再会します。フェレイラは、日本ではキリスト教は根付かないと語ります。
第13場「長崎の町」: ロドリゴは処刑前に街中を引き回されます。
第14場「独房」: 独房で「Laudate Eum（讃えよ、主を）」の文字を見つけます。遠くから聞こえるうなり声に耐えかねて戸を叩くと、フェレイラが現れます。文字を刻んだのはフェレイラ自身であり、うなり声は穴吊りにされた信徒のものだと告げられます。
第15場「白い朝」: ロドリゴは踏み絵の前で「あなたは本当におられるのか」とアリアを歌います。
第16場: ロドリゴは踏み絵に足をかけます。遠くから「Ora pro Nobis」の合唱が響き、幕が閉じます。

作品のテーマ

このオペラは、信仰の試練、人間の弱さ、そして神の沈黙という深いテーマを探求しています。迫害の中で信仰を貫くことの難しさ、そして人間としての弱さや葛藤が、登場人物たちの行動や感情を通して描かれています。松村禎三の音楽は、これらのテーマを力強く表現し、観客に深い感動と問いを投げかけます。

参考文献

新国立劇場・二期会オペラ振興会2000年3月公演プログラム「沈黙」
新国立劇場2012年2月公演プログラム「沈黙」

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