沖不可止

昭和期に日本の音楽界で多方面にわたり活躍した人物に、作曲家、指揮者、そしてチェロ奏者であった沖 不可止（おき ふかし、1902年3月6日 - 1976年3月15日）が挙げられる。

東京府（現在の東京都）に生まれた沖 不可止は、若くして音楽の道を志した。彼は、ドイツの音楽教育家であるハインリヒ・ヴェルクマイスターや、日本の作曲家である信時潔といった著名な音楽家たちに師事し、音楽家としての基礎を築いた。特にチェロを深く学び、1926年（大正15年）3月には東京音楽学校（現在の東京芸術大学音楽学部）の本科器楽部チェロ専攻を卒業し、演奏家としての技術を確立した。

私生活においては、日本舞踊家の二代目藤蔭絃枝（本名：沖カツ子）を妻に迎えている。

彼のキャリアは演奏活動だけに留まらず、教育分野でも重要な役割を担った。1935年（昭和10年）からは東京市立目黒高等女学校（現在の東京都立目黒高等学校）で音楽科の教諭を務め、後進の指導にあたった。また、指揮者としても活動し、1966年（昭和41年）には諏訪交響楽団の指揮者を務めるなど、オーケストラ音楽の普及にも貢献した。

作曲家としての沖 不可止は、幅広い分野で作品を残している。特に知られているのは、皇宮警察本部によって正式に制定された二つの楽曲、「皇宮警察行進歌」と「皇宮警察壮行歌」である。これらの楽曲は、いずれも白岩晃が作詞を手がけたものである。また、特定の地域のために作曲された「長浜市民の歌」（作詞：木俣修）のような作品も存在する。

しかし、沖 不可止の作曲活動の中で最も特筆すべき功績は、その生涯を通じて非常に多くの学校の校歌を作曲したことだろう。彼の作品は、日本全国、特に高等学校の校歌として数多く採用されている。例えば、福井県立羽水高等学校、岡山県立東岡山工業高等学校、岡山県立鴨方高等学校、長崎県立長崎南高等学校、長崎県立大村園芸高等学校、長崎県立西彼農業高等学校、長崎県立長崎工業高等学校、長崎県立大村工業高等学校、神奈川県立川和高等学校など、挙げればきりがないほどの学校の校歌を手がけている。これらの校歌の多くは、木俣修、永瀬清子、福田清人といった名だたる詩人や作家たちが作詞を担当しており、沖 不可止のメロディーと共に、多くの学生たちの記憶に残る歌となっている。教育の現場に根ざした彼の作曲活動は、音楽教育や地域文化の振興にも大きな足跡を残したと言える。

晩年まで音楽活動を続けた沖 不可止は、1976年（昭和51年）3月15日、74歳でその豊かな生涯を閉じた。彼の残した多岐にわたる作品群、特に多くの人々に歌い継がれる校歌は、今も彼の音楽家としての功績を伝えている。

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