沖縄県営鉄道輸送弾薬爆発事故

沖縄県営鉄道輸送弾薬爆発事故は、1944年（昭和19年）12月11日、太平洋戦争末期の沖縄で発生した凄惨な鉄道事故です。沖縄県島尻郡南風原村（現在の南風原町）の沖縄県営鉄道糸満線において、兵員と武器弾薬を輸送していた列車が突如大爆発を起こし、220人以上の犠牲者を出しました。これは日本の鉄道事故史上、最悪の被害となった極めて悲劇的な出来事です。

事故発生の背景

当時、戦況は厳しさを増し、米軍の沖縄本島上陸が目前に迫っていました。日本軍はこれに備え、部隊の再配置を進めており、沖縄南部に駐屯していた第9師団が台湾へ転出するのに伴い、その担当地を第24師団が引き継ぐことになりました。この大規模な部隊移動と物資輸送のために、沖縄県営鉄道による輸送が活発に行われていました。

事故当日の経緯

事故は1944年 12月11日に発生しました。嘉手納駅を出発した6両編成の列車には、多数の兵員と武器弾薬が積載されていました。列車は途中の古波蔵駅に到着すると、機関車のみが那覇駅方面へと向かい、ガソリン入りのドラム缶を積載した無蓋車1両と、別の有蓋車1両を牽引して古波蔵駅に戻るという作業を行いました。その後、これらの車両を先頭に、元の6両を後部に連結するという複雑な編成変更が行われました。この再編成された列車には、引き続き兵員に加え、通学途中の女学生も一部乗せて、糸満駅に向けて出発しました。

喜屋武駅を通過し、南風原村（現在の南風原町）神里付近の上り坂に差しかかった際、貨物と乗客を満載した列車は速度が鈍っていました。その時、突如として凄まじい轟音と共に大爆発が発生しました。列車に積まれていた弾薬も次々と誘爆し、あたりは瞬く間に炎に包まれました。この爆発による轟音は、遠く離れた那覇市や沖縄県南部地域全域にも響き渡ったと言われています。

壊滅的な被害と現場の状況

この事故により、列車に乗っていた人々は壊滅的な被害を受けました。犠牲者は、乗車していた兵士約210人、女学生8人、そして乗務員3人を合わせた合計で約220人に上りました。これは日本の鉄道事故としては空前の規模の被害であり、当時としては史上最悪の惨事となりました。爆発の瞬間、とっさに貨車から飛び降りて列車から離れた女学生2人と乗務員1人の、わずか3名が奇跡的に生還したのみでした。

事故現場に残されていた時計の針は午後4時30分頃を指していたと記録されています。爆発の衝撃は凄まじく、最後尾の1両は連結が外れ、積載されていた弾薬や兵員は広範囲に飛散しました。燃え盛る貨車は坂を後退し、津嘉山駅まで達したという証言もあります。

事故原因と被害の拡大要因

事故の直接的な原因は、列車の機関車の煙突から排出された火の粉が、機関車のすぐ後ろに連結されていた無蓋車に積載されていたガソリン入りドラム缶に引火し、爆発を引き起こしたことと考えられています。さらに、列車には戦闘用の弾薬なども大量に積載されており、これらが最初の爆発に誘発されて次々と爆轟したことが、被害を拡大させた決定的な要因となりました。加えて、線路脇のサトウキビ畑には軍の弾薬が数百トンも野積みされており、これらにも火が燃え移り大規模な誘爆を繰り返しました。これにより、事故現場から周囲数百メートルが火の海となり、一部の家屋にまで延焼するに至りました。爆発音は一晩中続き、付近の村人は恐怖から壕などに避難を余儀なくされたと言われています。また、列車には多くの貴重な医療品も積み込まれていましたが、これらも全て爆散し、失われてしまいました。事故現場周辺のガジュマルなどの木々には、吹き飛ばされた包帯や痛ましい肉片などが引っかかっていたと記録されており、後に兵士が回収を行ったと伝えられています。

戦時下の情報統制と軍の認識

この悲惨な事故は、戦時下の情報統制により厳重に秘匿されました。対馬丸事件と同様に箝口令が敷かれ、その実態が戦時中に広く公にされることはありませんでした。

軍内部では、軍規で禁止されていたにも関わらず、無蓋車にガソリンや弾薬を混載していたことが事故の原因となったことから、当時の第32軍参謀長であった長勇中将は激しく憤慨したと伝えられています。彼は軍への注意喚起書の中で、この事故を「国軍創設以来初めての不祥事件なり」と断じ、「これにより当軍の戦力が半減せりというも、過言ならず」と述べています。さらに、「今、敵上陸するとせば、われは敵に対応すべき弾薬なく玉砕するほかは無き現状」と記しており（原文は旧字体・カタカナ）、数百トンに及ぶ弾薬の損失が、間近に迫った沖縄戦を戦う上で、軍にとってどれほど致命的な打撃であったかを示唆しています。

現代における再検証

長らく歴史の陰に埋もれ、語られることの少なかったこの事故ですが、近年になって再び注目されるようになっています。2020年6月21日放送のNNNドキュメント「封印～沖縄戦に秘められた鉄道事故～」では、那覇市史などの資料や関係者の証言に基づいて、CGによる事故の再現映像が作成・放映されるなど、その実態が再検証されています。

沖縄県営鉄道輸送弾薬爆発事故は、戦時下の混乱や杜撰な物資管理、そして情報統制がいかに大きな悲劇を生んだかを示す、忘れてはならない歴史的な出来事として記憶されるべきでしょう。

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