河井荃廬

河井荃廬（かわい せんろ）

河井 荃廬（かわい せんろ、1871年6月15日 - 1945年3月10日）は、近代日本の篆刻家です。中国に渡り呉昌碩に師事し、金石学に基づく篆刻を日本に啓蒙し、その発展に大きく貢献しました。京都出身。

生涯

京都寺町で印判師の長男として生まれた荃廬は、幼少の頃から学問に励み、篠田芥津に篆刻を学びました。27歳の時、呉昌碩に手紙を送ったことがきっかけで、彼の指導を受けるようになります。清国への憧憬を募らせた荃廬は、ついに渡航を実現し、呉昌碩と親交を深めました。その後もたびたび中国を訪れ、文物を収集するとともに、篆刻家としての腕を磨きました。

明治36年（1903年）に東京へ移住。三井高堅の庇護を受け、その屋敷内に居を構えました。荃廬は中国美術の鑑定にも長けており、高堅のコレクションのアドバイザーも務めました。大正3年（1914年）には、呉昌碩が初代社長を務める西泠印社の設立発起人の一人となり、日本の篆刻界における重鎮としての地位を確立しました。

太平洋戦争末期、東京大空襲により自宅が焼失。多くの蔵書や書画とともに、生涯を閉じました。

作風

荃廬の篆刻は、時代とともに作風が変化しています。初期には師である篠田芥津の影響が色濃く見られましたが、後に陳鴻寿、徐三庚、呉昌碩など、様々な大家の作風を取り入れ、独自の境地を開きました。六朝風の楷書を篆刻に使用したのは、荃廬が最初であると言われています。

晩年は、納得のいかない作品を後世に残したくないという思いから、制作をあまり行わなかったと言われています。

業績

荃廬は、金石学の研究に深く取り組み、正しい印学を日本に広めることに尽力しました。明治40年には、中村蘭台らと丁未印社を結成し、後進の育成にも力を注ぎました。また、新聞への連載を通じて篆刻の普及に貢献し、その評論は『日本印叢』として刊行されました。

30年にわたる中国渡航で収集した書画や書籍は膨大な量に上り、特に趙之謙の作品は国内に紹介する上で重要な役割を果たしました。これらのコレクションは、荃廬の学識の深さを物語るものでもあります。

印譜

『日本印叢』山本雨石
『忘荃屢印存』
『荃廬印存』植松香城編、昭和7年
『荃廬印譜上下続』松丸東魚編集、白紅社、昭和31年
『継述堂印存』尚友会編、昭和36年
『荃廬先生印存』尚友会編、二玄社、1976年
『河井荃廬の篆刻』西川寧、二玄社、1978年

参考文献

須羽源一「河井荃廬翁のおいたちとその学問」中田勇次郎『日本の篆刻』二玄社、1966年。

関連項目

篆刻
日本の篆刻史
日本の篆刻家一覧
書道展

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