河内本源氏物語校異集成

『河内本源氏物語校異集成』は、2001年に加藤洋介氏によって編纂・出版された『源氏物語』の校異集成です。既存の主要校本である『源氏物語大成校異編』は、大島本などの青表紙本系統の写本を底本としており、簡潔さを重視した編集方針から、河内本系統の写本に関する校異は限定的にしか収録されていませんでした。

しかし、『源氏物語』研究の進展に伴い、河内本独自のテキストの差異を詳細に検討する必要性が認識されるようになりました。そこで、加藤氏は『源氏物語大成校異編』を補完する形で、河内本系統写本の校異を網羅的に収録した『河内本源氏物語校異集成』を編纂しました。

本書の編纂にあたっては、まず『源氏物語大成校異編』の底本を正確に翻刻した上で、河内本系統の諸本との校異を、『源氏物語大成校異編』と同等の基準で詳細に記録しました。さらに、『源氏物語大成校異編』で扱われなかった河内本系統の写本についても、可能な限り校異を採録することで、より網羅的な情報を提供することに成功しています。

本書の作業は、文部科学省の科学研究費補助金を受けて、長年に渡り行われました。1993年から1997年にかけては、研究成果報告書が私家版として複数巻で出版されましたが、これらの報告書は市販されず、国立国会図書館など一部の図書館に所蔵されていました。本書は、これらの研究成果を基に、全体を統一的に再編集し、一冊にまとめたものです。

『河内本源氏物語校異集成』に収録された校異の数は膨大で、桐壺巻から幻巻までで約16,000項目、匂宮巻から夢浮橋巻までで約8,300項目に及びます。補訂箇所も桐壺巻から幻巻までで約3,600箇所、匂宮巻から夢浮橋巻までで約2,000箇所に達します。これにより、河内本系統の写本における『源氏物語』本文の多様な異同を詳細に把握することが可能になりました。

本書で校異の採用対象となった河内本系統の写本は、御本、七毫本、高松宮家本、尾州家本、平瀬本、大島本、鳳来寺本、為家本、吉田本、一条兼良奥書本、岩国吉川家本など多岐に渡ります。これらの写本に加え、部分的に校異が採用されている写本も複数存在します。これらの写本の選択には、本文の完全性や河内本系統との関連性などが考慮されていると考えられます。

『河内本源氏物語校異集成』は、本文そのものは収録されていませんが、『校異源氏物語』や『源氏物語大成校異編』と併用することで、河内本系統の写本における『源氏物語』の異同を網羅的に理解することができる、非常に貴重な資料です。本書は『源氏物語』研究に大きな貢献を果たし、今後の研究にも不可欠な文献と言えるでしょう。加藤氏は、本書の編纂後も定家本や別本に関する同様の研究を続け、その成果をインターネット上で公開しています。これらの研究は、『源氏物語』の本文成立過程を解明するための重要なステップとなっています。

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